第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第二節 人質 第四話(通算89話)
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だ。行かないなら、母さんと脱出する」
バイザーを開け放って、カミーユが肉声を放つ。フランクリンにしてみれば、突然の息子の登場に驚愕するだけだった。
カミーユにすれば、時間の無駄にしか感じない。フランクリンを説得する必要などないのだ。機会を与えるだけでいい。選ばなければ死が待ち受けていることを教え、残るというならそれが父親の生き方なんだと思うしかなかった。父親をよく知る息子だからこそ、フランクリンが脱出に賛同するとすれば、なんのためか解りすぎるのだ。
「カミーユ……あなた……」
エマにはカミーユの葛藤が理解できなくはない。父親を嫌ってはいても、嫌いになりきれない――反発することでしか父親の関心を自分に向けさせられないのだ。
「……エゥーゴか……」
エゥーゴの名前を耳にしてやっと得心したようだった。だが、実際に、フランクリンの脳裡に浮かんだのは、エゥーゴのMSを弄りたいという欲求と、ティターンズの次期主力MSを完成させた名誉の軽重であり、カミーユの言葉でも、エマの言葉でもない。そもそも、二人の言葉をきちんと聞いているかも怪しかった。
この目であのMSを見て、触って、構造を研究したい。フランクリンの頭はMSの開発から離れることなどないのだろう。一瞬、屈託のない笑顔で甘える愛人のことが頭をよぎったが、彼の探求心のブレーキにはなりえなかった。所詮、そんな薄情だからこそ家族を顧みず不倫にうつつを抜かせるのだ。
「……よし、解った。行こう」
エマにも、フランクリンが本心ではなく、単にエゥーゴのMSへの関心だけであるとみてとれる。だが、今はそれでいい。この人を仲間に殺させないためには、それ以外の選択肢はないのだから。
「ではノーマルスーツに着替えて、バイザーを閉めてロックしてください」
手にしたノーマルスーツを渡し、着替えを促す。不馴れだからだろうが、なかなか着替えられないフランクリンに、黙ってカミーユが手を貸した。見るに見かねたのだろう。
(いいとこ、あるじゃない)
エマは好意的に誤解した。が、実際にはカミーユは内心舌打ちしていた。中年太りによってフランクリンは動きが緩慢になっており、足手纏いになりかねないと考えたのだ。その確認をしていただけなのだが、予想通りであり、益々フランクリンを軽蔑した。
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