第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第二節 人質 第三話(通算88話)
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カミーユはじっと力を蓄えていた。いや、蓄えるしかできなかった。
エマに宛がわれた下士官房へ案内されてから、かれこれ一時間が経っている。何もすることがないというのは、今のカミーユにとっては辛かった。使命感に駆られて焦っているとも言える。エマにそのことを指摘され、待機を言い渡された。元々の作戦通りであるため、文句の言い様もない。
「……」
監視カメラのついた室内は、営倉よりましではあったが、迂闊に独り言も呟けない。できるだけ普段と変わらぬようにしなければならないが、焦燥感に煽られてじっとしていられなかった。空手の型でもやってみようかとも思ったが、警戒されることはやめた方が無難だと判断した。
結局、焦りを抑えるためには、ベッドに横たわるしかないと、身動ぎもせず、じっと壁を見つめて時間の過ぎるのを待つ。
(そろそろ一時間経つ……よな)
エマは今頃、人質の居場所を突き止めている筈だ。計画通りノーマルスーツは手に入ったろうか。ノーマルスーツを着てバイザーを下ろしてしまえば、覗き込まない限り、誰だか判らなくなる。この作戦成功のためには欠かせない装備だった。
(先に俺だけでも……ノーマルスーツを手に入れといた方が……いいかな?)
確かに時間の短縮にはなる。しかし、行き違いになってしまっては、作戦が台無しになってしまう。やはり、エマの戻りを待つしかなかないのだ。作戦の変更は、実行不可能になってからでも遅くない。
苛々して、親指の爪を噛んだ。子供のころからの癖だった。お節介なユイリィに、この癖をよく叱られたものだ。たかが数年前のことなのに、ひどく懐かしい気がした。
――プシュッ
軽いエア音がして、ドアが開く。照度の低い部屋の中に光が射し込んだ。ノーマルスーツの影が伸びる。
「カミーユ少尉、行くわよ」
エマだった。
その声を、最後まで聞かずにベッドから跳ね起きたカミーユは、差し出された濃紺のノーマルスーツを受け取った。すかさず、両脚を突っ込んで袖を通す。無重力下で着なれているお陰かスムースに収まる。ヘルメットの装着はエマが手伝った。
――お父様はここの右隣の士官区に、お母様は反対側……左舷よ。
エマはヘルメット同士を付けてカミーユに現状を報せる。これはMSの『お肌の触れ合い会話』と同じ原理である。接触回線ならば盗聴の危険はないからだ。
――それと、スクワーム少尉とメズーン少尉の家族は《アレキサンドリア》には居なかったわ。
――じゃあ、別の艦に?
カミーユはとっさに作戦の変更が必要なのかという顔をした。カミーユたちが一度脱出してしまえば、もう一度再潜入を試みることはできないだろう。《ガンダム》ならば僚艦に着艦するのも難しくはないが、《アレキサンドリ
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