第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第二節 人質 第二話(通算87話)
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浮かべるのは、権力を持った者が持たざる者を見る蔑みの表情だった。
「少尉、考え違いをしてもらっては困る。ここはティターンズだ。一般将校は二階級下の扱いだ。ティターンズで少尉扱いして欲しければ連邦軍大尉くらいにはなってから言いたまえ」
自分たちティターンズは特別である――組織に与えられた特権を自らの力と勘違いしている愚かさの見本だった。エリート意識の肥大化が選民主義になるのは仕方ないのだろうか。エリートでない者がエリートになるが故の弊害だろうか。
この醜さには反吐が出る思いがした。
ジャマイカンはカミーユの憤懣やる方ない態度が愉快だった。これがティターンズに加わった最大の役得だとさえ思える。少佐で大佐相当の待遇を要求でき、一般将校への指揮権もある。優越感をこれほど満たすものはなかった。
「くっ……」
「解ったのかね?」
ティターンズのスタッフにさえ嫌われる嫌味ったらしい笑みを浮かべてカミーユを見据える。一瞬、真剣な眼を据えて傲岸に見下した。
腐ってやがる。そう言おうとしたのを飲み込んで、奥歯を噛み締める。だが、怒りを堪えきれない。
カミーユの顔に怒気の所為か赤みが差す――が、見かねたエマが割って入った。
「ジャマイカン少佐、ビダン少尉をからかうのはそのくらいにしていただけますか?」
エマの横槍に鼻白んだジャマイカンは、面白くなさそうに鼻哂して部屋を出ていった。ブリーフィングルームが一瞬静まり返る。
「カミーユ、ジャマイカン少佐の挑発にのらないで。少佐は計算ずくなのよ? 今のままなら、貴方を営倉に入れる理由はないから」
カミーユは憮然として相槌を打つ。
ティターンズの中にあっては、エマがかなりまともに感じると、出発前に突っ掛かったこともあり、気まずさを覚えるのだ。
エマはカミーユに対してまるで子供だという印象を持った。つまりは、反抗期の少年と同じなのだ。理屈を言えば解るだけに始末が悪かった。
「エマ、そのぐらいにしとけ」
事態を静観していたカクリコンが声を掛けた。バスクからフランクリンとヒルダ夫妻の監視を命じられて、ブリーフィングルームに来たのだが、興がのらないことこの上ない。命令には背かないが、パイロットの仕事ではないとやる気のない態度である。
「カミーユと言ったか、少尉はエマが案内しろ。大尉と中尉は自室にお戻りください」
「カクリコン中尉、息子――カミーユと話をさせて」
ヒルダが取りすがるが、カクリコンは首を横に振った。無言で出口を指し、有無を言わさぬ態度を崩さなかった。
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