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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第98話 人と人
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族、特に大佐の階級章を付けた父親の顔色が変わり、息子の新入生に耳打ちしている。叩き上げでついには艦隊司令官まで上り詰めた歴戦の老提督と、降下猟兵にその人ありと言われる軍団司令官の名前、それにその二人の意を受けた『ボロディン』という名前の軍人兄妹になにかヤバいものを感じたのかもしれない。虎の威を借りるような真似だが、これで候補生内の口コミによってブライトウェル嬢への不当な干渉が減れば儲けものだ。

 そんな隣の家族を無視して俺はブライトウェル嬢を手招きすると、アントニナと握手するよう手振りで指示をする。いつになく細く危険なアントニナの鋭い眼差しと、身長ではアントニナより五センチばかり高いブライトウェル嬢の上から目線の衝突は一〇秒近くにも及び、両者とも明らかに嫌々と言った風情で手を伸ばし握手する。

「……これから四年間、お世話になります。アントニナ=ボロディン二回生殿」
「……えぇ、貴女の士官学校への入校を歓迎するわ、ジェイニー=ブライトウェル一回生」

 無表情のはずのブライトウェル嬢の右手の甲の血管が何故か浮かび上がり、アントニナの右唇と右米神が微妙に震えているのは見なかったことにしたい。運動神経は同世代では間違いなくトップクラスのアントニナだが、こういった勝負ではいささか分が悪い。

「よし、仲良くなったところで昼食にしよう。せっかくの料理が冷めてしまう」

 俺が作り笑顔でそう言って手を叩いた後アイリーンさんの椅子を引くと、アントニナもブライトウェル嬢もアイリーンさんも、それに隣の大佐ですら……随分とシラケた視線を俺に向ける。

 まぁありえない話だろうが、水と油のこの二人が同じ職場で働くようなことがあれば、周囲の人間の胃壁はともかく、随分と活力に富んだ職場になるんじゃないかなと、並んで座って、無言で同じように皿のステーキを口に運ぶ二人を見ながら、俺は勝手にそう思うのだった。

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