第98話 人と人
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時にお父さんが貰ってきてくれた」
「あとはシトレの腹黒親父ぐらいしか……」
「シトレおじさんは毎年新年の時に送ってきてくれるよ?」
「なんてマメなことしやがるんだ、あの腹黒親父……」
そういうマメな心遣いが、厚い信望の要因の一つではあるのだろう。だがそうなるともう後はサイラーズ宇宙艦隊司令長官か、アルベ統合作戦本部長しか考えられない。伝手が無いわけではないが、アントニナに相応しいかどうかわからないし喜んでもらえるとも思えないし、もしかしたら主要な軍人に限ればグレゴリー叔父から貰ってきているかもしれない。
「わかった。その三人以外でなんとか考えてみる」
「せいぜい期待してるよ、ヴィク兄ちゃん」
口に手を当ててクスクス笑うアントニナは、顔こそすっかり大人になりつつあるが、本性は昔と変わらない陽気で優しく、お茶目で正義感の強い妹のままだった。と、この時までは思っていたのだが……
「あん時の赤毛の女……」
「……ご無沙汰しております。アントニナ=ボロディン候補生殿」
綺麗に整えられた両眉の間に深い皺を寄せて歯ぎしりしながらブライトウェル嬢を睨みつけるアントニナと、絶対零度の表情で一三〇点満点の完璧な敬礼をアントニナに向けるブライトウェル嬢。二人を見るアイリーンさんはオロオロしているし、両隣の家族もこちらのただならぬ雰囲気にこちらへチラチラと視線を向けてくる。
「ちょっとどういうこと? ヴィク兄さん、聞いてないんですけど?」
「だってそりゃあ、言ったらアントニナは嫌だって言いそうだし……」
「嫌に決まってるでしょ」
「では、命令だ。アントニナ=ボロディン候補生」
「なんでっ……、了解しました、ヴィクトール=ボロディン中佐」
フィッシャー師匠直伝の無表情と冷めた視線でアントニナを見据えると、苦虫を?み潰しつつアントニナはゆっくりと敬礼する。入校して一年、まだ個性の剥奪までは至っていないが、軍人へとの道を着実に進んでいる。これがアントニナにとって良いことなのかどうかは分からない。
「小官といたしましても、わざわざ妹さんのお手を煩わせるようなことは、遠慮したいとは思っておりますが」
「遠慮する必要はない。これは『命令』だ」
「ですが……」
フォローについて手配してくれるのはありがたいが、明らかに嫌がっているアントニナの様子を見て、少しだけ瞳に心配が浮かび上がったブライトウェル嬢に、俺は敢えて突き放すような口調で言った。
「私も第五艦隊司令官アレクサンドル=ビュコック中将閣下と、第五軍団司令官オレール=ディディエ中将閣下のご命令を受けて、アントニナ=ボロディン候補生に指示をしている」
爺様とディディエ中将の名前を聞いて、恐らくはブライトウェル嬢と同じ戦略研究科の新入生と思われる右隣の家
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