第98話 人と人
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と深く話をすべきだった。前線の武勲なしに三〇代後半で中佐という地位にあるというのは、政治的なコネがあったかもしれないにしろ通常の前線勤務将校の昇進スピードと何ら変わらない。俺みたいにズルをせず、ホワン=ルイに国家としての継戦能力の低下を主張できる思考力と度胸。ピラート中佐の次の職場が確かトリプラ星域軍管区だったことを考えると、今更ながら後悔しか浮かばない。そして……
「つまりは小官の背中に見え隠れするシトレ大将の影とトリューニヒト氏の影、僅かな武勲を持っていることで、交渉が実にスムーズになり行政側の皆様は実に心地が良いと。そういうわけですね」
「ま、そういうことだね。ピラート中佐には悪いが、君に代わってくれて我々は本当に助かっているんだ。私もトリューニヒト氏の頬にキスしたいくらいさ。君にとってみれば不運で不満かもしれないが、珍しく良い人事をしてくれたってね」
もう一個食べても問題ないよね、と言って席を立つホワン=ルイのおどけた表情に、俺は苦笑を隠すことは出来なかった。
◆
ホワン=ルイとの夜食会から二週間後。俺はチェン秘書官に無理を言ってスケジュールを空けさせた八月一日。単身ハイネセンポリスからテルヌーゼン市へと向かった。
一〇日前。アイリーンさんからブライトウェル嬢が士官学校に合格した旨、連絡があった。受験した全ての学科に合格し、嬢は最終的に戦略研究科を選択したそうだ。入学席次は四六番/四六七七名中。戦略研究科志願者内では三七番/三九〇名中。入学時の俺よりもはるかに成績は良かったものだから、アイリーンさんからの連絡が来てから二〇分も経たないうちに、第五艦隊司令部を代表してモンティージャ大佐から『万難を排しても午餐会に出席するように』との司令官通告と『現第五艦隊司令部で最も優秀な人材が、士官学校で心おきなく学業に励めるよう対処せよ』との指示を受ける羽目になった。
だから早朝テルヌーゼン空港の到着ロビーの出会いの広場で、ピカピカのセレモニースーツを纏って俺を待ち構えていたアントニナが、その理由を聞かされて過去最悪の機嫌になっていたのは、決して俺のせいではない。
「んなわけないでしょ」
俺支払いの無人タクシーの中で、アントニナはふくれっ面で俺を指差し、睨みつけてくる。
「ヴィク兄ちゃんもさ、士官候補生だったんだからわかるでしょ? 二年生は新入生式典の準備やなんやかんやで忙しいのに、兄ちゃんが休みをとれっていうからわざわざ優しい三年生と夜警交代を条件に代わってもらったんだよ? それがなんでよりにもよって『午餐会』に出なきゃならないの?」
体のいいさらし者じゃないと、ちょっとだけ伸びた艶のある金髪を振り回し怒るアントニナに、俺はただひたすら平謝りするしかない。
本来ならモンティージャ
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