暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その2 (旧題:マライの純情)
[6/6]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
を、マサキは強く握った。 
「お前はユルゲンの女だ、つまりはアイリスの身内という事だ。
遠慮はいらん。なんならお前の事を助けてやってもいい」
「貴方には、関係のない事でしょう!」
 マライは、マサキの手を邪険に振り払うと、いつになく声を強張らせていった。
彼女は、マサキの顔を見れないまま、目を閉じた。
「今の反応を見ると、図星の様だな」
 その言葉は質問というよりも、マサキの独り言の様だった。
「お前とユルゲンに何があったが知らんし、聞きたくもないが、お前に今、死なれては困るのだ」
 マライは、つき上げられたように胸をおこした。
その顔は、能面より白かった。
 マサキは、そのとき見た。
彼女の顔が、涙に洗われている。
「えっ」
 マサキは、あらぬ方に視線を泳がせていた。
この男は、何を考えているのだろう。
 マライは、東洋人の瞳の中に、無限の哀しみを見たような感じがした。
今までに、一度も見せたこともない色だった。
「詳しいスパイの情報や、内容を聞いていないからな……
それに、今お前が抱えているのは、ユルゲンの子だろう……」
「ええ、そうよ……」
 マライの忍び泣くような声が、聞こえた。
「そうすると、アイリスの大事な甥になる……アイリスは俺の女だ、つまりは俺の甥にもなるってことさ」
 静謐(せいひつ)を破るような嗚咽が、聞こえた。
マライの、烈しいこらえ泣きであったのだ。
 その悲泣は、見るにも堪えない。
マサキは、その逞しい体を馴れ馴れと、すり寄せて、彼女の背をなでるのだった。
「とりあえず、今回の件が決着がつくまで、お前とお前の子供の命を預からせてくれないか。
ユルゲンに近づいた、すべた(あま)は、俺が調べて、懲らしめてやるよ」
 西ドイツのスパイが、ユルゲンに接触した。
この大きな秘密を知ったことは、何かの役に立てそうな気がした。
 東西ドイツ両国にも、政治的スキャンダルとして、なにか利用できるのではないか。
マサキは、初めて悪魔的な笑みを浮かべるのであった。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ