第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その2 (旧題:マライの純情)
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を、マサキは強く握った。
「お前はユルゲンの女だ、つまりはアイリスの身内という事だ。
遠慮はいらん。なんならお前の事を助けてやってもいい」
「貴方には、関係のない事でしょう!」
マライは、マサキの手を邪険に振り払うと、いつになく声を強張らせていった。
彼女は、マサキの顔を見れないまま、目を閉じた。
「今の反応を見ると、図星の様だな」
その言葉は質問というよりも、マサキの独り言の様だった。
「お前とユルゲンに何があったが知らんし、聞きたくもないが、お前に今、死なれては困るのだ」
マライは、つき上げられたように胸をおこした。
その顔は、能面より白かった。
マサキは、そのとき見た。
彼女の顔が、涙に洗われている。
「えっ」
マサキは、あらぬ方に視線を泳がせていた。
この男は、何を考えているのだろう。
マライは、東洋人の瞳の中に、無限の哀しみを見たような感じがした。
今までに、一度も見せたこともない色だった。
「詳しいスパイの情報や、内容を聞いていないからな……
それに、今お前が抱えているのは、ユルゲンの子だろう……」
「ええ、そうよ……」
マライの忍び泣くような声が、聞こえた。
「そうすると、アイリスの大事な甥になる……アイリスは俺の女だ、つまりは俺の甥にもなるってことさ」
静謐を破るような嗚咽が、聞こえた。
マライの、烈しいこらえ泣きであったのだ。
その悲泣は、見るにも堪えない。
マサキは、その逞しい体を馴れ馴れと、すり寄せて、彼女の背をなでるのだった。
「とりあえず、今回の件が決着がつくまで、お前とお前の子供の命を預からせてくれないか。
ユルゲンに近づいた、すべた女は、俺が調べて、懲らしめてやるよ」
西ドイツのスパイが、ユルゲンに接触した。
この大きな秘密を知ったことは、何かの役に立てそうな気がした。
東西ドイツ両国にも、政治的スキャンダルとして、なにか利用できるのではないか。
マサキは、初めて悪魔的な笑みを浮かべるのであった。
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