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冥王来訪
第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その2 (旧題:マライの純情)
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いたマライに後ろから声をかけた直後、いつもとは違う空気が流れていることに気が付いた。
「どうして……」
 東ベルリンならともかく、ニューヨークに降ってわいたように現れたマサキの事を不思議そうに見つめていた。
無言のまま、マサキはマライの前に立っていた。
 直後、マライはしゃがみ込んでしまう始末だった。
マサキは抱え起こした。
しかし、完全に力をなくした女の体は、意外と重い。
「どうした」
耳元でささやくと、やっとマサキに縋り付いて、マライは立ち上がった。
「こんなところでへこたれてどうする。ニューヨークの夜は冷える……そんな薄着では凍え死ぬぞ」 
 マライの支度は、ベージュの薄手のプルオーバーセーターに、リーバイスのジーンズ。
日没になれば氷点下近くまで気温が下がる、短いニューヨークの春に向かない格好であった。
「それで良いの……もう死にたいわ」
 あながち冗談ではなさそうだ。
マサキは、ますます何かあると感じたが、そんな素振りは見せず、着ていた濃紺のローデンコートをマライの背中にかけてやった。
「そいつは構わないが、死ぬ前に何があったか、詳しく教えてくれないか」
 そんな会話を交わしながら、マライを支えて、セントラルパークの近くにあるホテルに向かった。
マライの話は、思ったより深刻なものであった。
 米国務省主催のレセプションに参加したユルゲンに、西ドイツ領事館職員を名乗る怪しげな女が近づいた。
そこで女は、ユルゲンに戦術機に関する機密情報を提供し、その見返りに西ドイツの協力者になれと迫ったというのだ。
マライはそのことを物陰で漏らさず聞いていたが、ユルゲンには問いたださなかった。
 
 ふとマサキは思慮に返って、しばらくは沈黙していた。
マライの様子を見極めながら、マサキは口を開いた。
「フフフ、なんだそんな事か……それくらいなら、俺がどうにかしてやるよ」
マサキは言葉を切り、タバコに火をつける。
「てっきり、ユルゲンが……お前の事を(はら)ませたのかと思ったが……」
 それにしても、孕ませたという言葉を聞いたマライの驚きは大きかった。
 思いがけない言葉に愕然とした。
この男は、どこまで知っているのだろう。
この時、初めて、マライはマサキに恐怖に似た感情を覚えた。
「奇麗ごとを並べ立ててても仕方があるまい。
真実をさらけ出した方が、かえってすっきりとすることもある」
 マライは、外人であるマサキに、自分とユルゲンとの関係を話しても、詮方(せんかた)ない事ではないか。
その様に諦めていた。
 彼女は、妊娠している事実を何の感慨もなく、他人事のように受け止めていた。
驚き、慌てるどころか、ひどく冷静で、まるで軽い風邪に掛かった様な受け取り方であった。
 なかば唖然とするマライの両手
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