第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その2 (旧題:マライの純情)
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の夫婦同然になり、深い関係になった。
あるいは、出国前から深い関係なのかもしれないが、国外という事で羽目を外したことも考えられる。
家庭環境が、決して幸せとは言えない、ユルゲンとアイリスディーナの兄妹だ。
今回の問題も決着の付け方によっては、全員が不幸になる。
ユルゲンやアイリスディーナはおろか、一方の当事者であるマライ。
そしてユルゲンの妻であるベアトリクス……
救いはユルゲンとの間にすでに一子がいる事か……
ベアトリクスの妻としての立場はゆるぎないし、問題はないと思うが……
ただ彼女は、文化的に妻妾を設ける東洋人でもないし、一夫多妻制を許容する第三世界人ではない。
どう諭すか、これも考え物だな……
マライもマライで、自分の子供は愛しかろう……
好んで自らの体に宿った生命に手をかける女はいない……
少なくとも、彼女に関してはそう信じたい。
海外出張で、単身赴任中の夫が男女の過ちを犯すというのは、よくあるパターンだ。
せめてもの救いは、同国人同士という事か……
最後に考えられるのは、ユルゲン自身が米政府に出奔する用意をみせるという事である。
しかし、これは考えづらい。
東ドイツ政府はすでにベアトリクスとユルゲンの息子という人質を抱えている。
元の世界で、1976年に函館に亡命したソ連防空軍のベレンコ中尉という人物がいた。
彼の場合は、母親が継母で、妻との間は疎遠で、子供もなかった。
亡命するにしても、ユルゲンとベレンコ中尉では環境が違い過ぎる。
ユルゲンの母は離婚したとはいえ、彼の事を気遣っているし、ベアトリクスとの結婚も長い恋愛の末だった。
順当な手続きを踏んで結婚もしたし、子供も一人とはいえ、いる。
子は鎹という言葉があるように、ユルゲンとベアトリクスの仲は、そう簡単には切れるものではない。
おそらく、最後のパターンではないはずだ。
あと考えられる最悪のパターンは、ユルゲンが西側の諜報員に接触を受けたのと、マライが妊娠が判明したのが、同時期に起きた可能性だ。
これは、ありえなくはない。
避妊をしていない20代の夫婦の妊孕率というのは1年で80パーセント、2年で90パーセントだからだ。
マライの年齢が、いくつか知らない。
だが、ユルゲンと同い年、あるいは2・3歳上だとすると、その可能性は排除できない。
思えば、アイリスディーナは、不遇な人生を辿った娘だ。
父がアルコール中毒、母が家庭を捨てて、間男に走った。
幼少期から、家族の愛に飢え、団欒を知らず、寂しい思い出しかなかったのではないか。
5歳年上の兄、ユルゲンがいなければ……、こんなに優しく、清楚には育つこともなかったであろう。
大概、このような崩壊家庭に育った少女というの
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