第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その2 (旧題:マライの純情)
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では、周囲も心配するからな」
「……」
彼女は、心の隅で申し訳ないという気持ちを抱きながら、羞じらいの笑みを浮かべた。
「俺とゼオライマーで遠乗りに出かけよう。今すぐにな……」
戦闘団長室の椅子に座るハンニバル大尉は、その場で二つ返事で快諾してくれた。
「同志ベルンハルト少尉、只今より12時間開放する」
本来ならば、前日の午前中までに提出せねばならないのだが、急な半休を調整してくれた様だった。
午前0時までの門限を決められて、外出を許されたアイリスディーナ。
彼女は、マサキと共に基地の外に出た。
ベルリンにあるボルツ老人の邸宅に場所を移して、マサキの土産話に花を咲かせた。
「先日まで、インドにいらしたと……」
本来ならば、そういう質問に答えないのが軍人の常である。
元々が民間人のマサキは、警戒心が甘かった。
「ちょっとばっかり、モルディブやセイロン(今日のスリランカ)に遊びに行っていた」
マサキは、日に焼けた頬へ微笑を浮べながら、
「一応、土産は何がいいかわからないから、適当に買ってきた。
バナナや、ダージリン、アッサム、セイロンの茶葉。
絨毯に、カシミヤのスカーフ……」
そういって、山積みになった段ボールから包み紙に包まれた物を取り出す。
包み紙にくるまれていたのは、インド原産の宝石や貴金属類であった。
それらを、無造作に机の上に並べながら、
「セイロンは、ルビーの原産地の一つでな……
お前の好みに合うかわからないが、民族衣装のサリーもあるぞ……気が向いたら着てくれ」
アイリスディーナは、瞬きもせずに、赤く頬を染めて、マサキを見上げている。
夢を見ている感じだ。
そんな表情だった。
「お忙しいところを……一番に……」
彼女は、瞳を震わせ、感極まって、打ち震えている。
思いがけない一言に、マサキは昂奮を覚えた。
「ああそうだ、お前の顔を拝んでみたくなったのさ」
おもむろにホープの箱を取り出して、タバコに火をつけると、こう切り出した。
「アイリス、重要な話とは何だ」
「実は……」
アイリスディーナの話はこうだった。
ユルゲンと一緒にいるマライが何やら重大な問題があるので、マサキの事を呼んでほしいという内容の電話を昨日受けたという事である。
マサキは、重要な話と聞いて、いくつかのパターンを類推した。
まず、ユルゲンに西側のスパイが接近したという事である。
駐在武官、外交官、大使館事務員を装ったスパイが虚実織り交ぜた怪情報をユルゲンに渡し、彼を自分たちの協力者にするというパターン。
次に、ユルゲンとマライの関係の変化である。
もっとも懸念されるのは、マライの妊娠である。
国家人民軍の任務とはいえ、夫婦としてアンダーカバーを装ううちに本当
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