暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その1 (旧題:マライの純情)
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
さなくなるわけ。
……ということは、米国やCIAの言いなりになるしかないのよ」
「そんなにうまくいくはずがないぞ」
「ゼオライマーの登場さえなかったら、計画通りなのにね……
いいえ、彼が世界各国とかかわりを持つ前ならば、計画の修復が可能だったのに。
もう駄目でしょうね……、一からやり直しだわ」
「計画通りってなんだ」
「そんなことも分からないの」
ユングは、言葉では強く出ていたが、正直ユルゲンの反応が怖かった。
「主要先進国のコンピューターを米国の製品にすることが出来たら……
設置する段階で、米本国の最新コンピューターと連携することが可能になるの……」
 ユルゲンは目に見えて、不機嫌になった。
ズボンのマフポケットに突っ込んでいた両手を、胸の前で組む。
「そうなれば、世界各国の政治も、経済も、米国の想いのままになる。
文字通り、属国になるわ」
 ユルゲンは、蒼白な色を顔に浮かべていた。
とっさに、荒い感情を吐きそこねて、かえって、打たれた自分を憐われむ様にしゅんと色を沈めている。
そして、静かに、薄い自嘲と度胸をすえた太々しい笑みを、どこやらに湛えていた。
「信じられないな。どうしてそんな最重要機密を、俺に……
戦術機部隊に復帰できなくても、俺は東ドイツの軍人だぜ」
 ユングは決然とした表情で言った。
体の内側で、小さな震えが起こる。
「もう戦術機は、米国にとって価値がなくなった……
でもゼオライマーに関しては、まだ利用価値があるの……
ドイツの為に、お互いの将来のために、私と組みましょう」
 ユルゲンの目が、ユングの目をとらえた。
瞳に、鋭い輝きが浮かんでいる。
「どういう意味だ」
 ユルゲンはユングの両肩をがっしりと掴んだ。
彼女は、全身を包んだ震えと、燃えるような情熱に、意識が霞んでいくのを感じた。
 ユルゲンの目に、野獣の輝きが浮かびかけているのに、体が動かない。
ユングの両肩に、さらに力が加わった。
このまま、ユルゲンに屈服されるのかもしれない……
 しかし、その時はその時だ。
彼女の心のどこかで、それすらも受け入れようという考えが浮かんでくる。
「このまま、本国に戻ったら、私の立場はないの……」
 胸がドキドキし、体が小刻みに震える。
ユルゲンの瞳に、一瞬、優しさが戻った。
「私の、所属している外務省の……いえ、西ドイツ官界の派閥は非主流派なの。
今、シュトラハヴィッツ中将が率いて、SEDにまで勢力を及ぼす国家人民軍の軍閥がどれほど持つかわからない」
そういってしなだれかかってくるユングに、ユルゲンはまごついてしまう。
「失敗すれば、ソ連の介入を招いた、10年前のチェコ事件、22年前のハンガリア事件の二の舞になるわ。
KGB長官が暗殺され、国家保安省が弱体化した、
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ