第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その1 (旧題:マライの純情)
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予測だった。
ちょうど今頃までは……」
二人の会話を、一部始終、暗闇で聞いていたものがいた。
ユルゲンの補佐役として渡米したマライ・ハイゼンベルクだった。
この手の外交セレモニーでは、武官だけでなく夫人を招待するのが常だった。
故に妊娠中で東ドイツに残った正妻のベアトリクスに代わって、ユルゲンの妻役として役目を果たしていた。
各国からの駐在武官・軍関係者夫人と懇談し、親交を深めるのも重要な任務だった。
武官のみならず、夫人にもそれなりの語学力や教養が求められた。
ワインを片手に懇談の途中、不意に悪心を感じた彼女は、ユルゲンに声をかけることなく化粧室に駆け込んだ。
身だしなみを整えてから、会場に戻った彼女は、ペアで来ていたユルゲンの姿が消えたのを不審に思って、ホテル中を探索した。
そこで偶然、近くのセントラルパークに移動するユルゲンたちに遭遇したのだ。
そして、こっそり尾行し、会話が終わるまで辛抱強く、植木の中に身を潜めていたのだった。
『大変な事を聞いてしまったわ。
でも、なんで、そんな最重要機密を、ユルゲン君に話したのかしら』
マライは、前線国家の東側だけではなく、西側諸国も金融資本の生贄になっているのに、内心びっくりした。
というのも、マライは、戦術機という未完成の製品が輸出されたのは、ソ連の指金ではないかと疑っていたからだ。
いくら表面上仲が良くても、所詮は敗戦国である。
何か政治的な事件に巻き込んで、証拠を作り、追放する手段として、ソ連指導部が利用したと企てたと考えが及ぶことがあったからだ。
西側諸国まで巻き込んだとなると、話がまるで違う。
それにしても許せないのは、米国政府を牛耳る支配者階層である。
マライは彼らに感づかれない様に、つとめて冷静に聞いた。
ユルゲンは、ユングの顔をにらみつけた。
「しびれを切らした我々が、米国に手助けを求めると……」
「そういう事ね。
始めは、操縦訓練シミュレーターを適当に進めるのよ。
効果は抜群だったはずな訳よ。
……その頃には、少しずつ完熟訓練が出来るほど技量が向上しているからね。
別にシミュレーターの効果ではないわ」
「焦った各国政府は、当然アメリカや製造元に対処を求めるわけか」
「その通りね」
「そこで、米国企業は法外な値段でサポートシステムやソフトウェアを売りつけるの。
およそ5億ドルでね」
(1979年のドル円レート、1USドル=239円)
「マクドネル社のファントムは、2400万ドル。
その倍以上の値段だぞ!」
ユルゲンは、少し責めるような顔つきになった。
ユングは、ひるまない。
「そしてファントム……
いいえ、戦術機のBETA戦の価値を知った各国政府は簡単に手放
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