第三部 1979年
孤独な戦い
匪賊狩り その5
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のドイツ帝国を築く」
酒蔵から持ち出した年代物のワインを、グラスに注ぐ。
秘蔵の酒は、帝政ロシア時代にクリミアで作られたスパーリングワインであった。
「ナポレオンの力をもって崩壊させた神聖ローマ帝国。
戦争まで仕掛けて、引きずり込んだ米国の手を借りて、ようやくつぶした、第二帝国、第三帝国。
それの牽制をしのぐEUを後ろ盾にした第四帝国が出来てみろ!」
ワイングラスをくるくると回したあと、口に含む。
100年前の豊潤な白ブドウの味が、口に広がった。
「我らが血のにじむような思いをして作り上げた、ロンドンの富も、この金融の世界も危うい……。
故にあのアジア人のパイロットを殺し、ゼオライマーというマシンを破壊することにしたのだ」
憮然とする男爵に、首相は平謝りに詫びいった。
「大変、申し訳ございませんでした」
「首相、形ばかりの謝罪などどうでもいい。
君の選挙のために、私はすでに200億ポンドの金を払っているのだ。
その働きをしてもらわないと困る」
(1スターリングポンド=418円)
男爵が、選挙に多額の資金を使った話をした直後である。
その刹那、部屋へ、黒の詰襟姿の男が入ってきた。
「それで俺の命を狙ったのか」
「貴様!」
突如としてあらわれた不気味な東洋人。
彼は、不敵の笑みを満面にたぎらせて、
「お前たちは俺の世界征服の後にいいように使ってやろうと思っていたが……
気が変わった!」
首相たちが、自動拳銃を取り出すよりも早く、男はM29回転拳銃を向ける。
「ここで俺のために死ね」
その瞬間、部屋の電気が消えた。
続いて、火花と銃声が数回響く。
「馬鹿な奴等よ。
目先の利益のために、この俺に喧嘩を売るとは……」
暗い室内に、不気味な笑い声が広がった。
「フハハハハ、人間の欲ほど愚かなものはないな。
それがある限り、戦いは終わらないという事か」
そういうと、男は屋内へ、持ってきたガソリンをぶちまける。
マッチを擦り、火を放つけた。
邸宅は見るまに、燃えあがった。
男は、紫煙を燻らせながら、屋敷を後にした。
その夜半。
英国王は、支那から来た高位のラマ僧、パンチェン・ラマとの会見の場に急いだ。
毛沢東の政策を非難した、この高僧。
彼は、昨年まで支那の奥深くにある労働改造所と呼ばれる暗黒監獄に押し込められていた。
改革開放を謳う新政権によって、出国を許され、世界各国の要人との面会に出かけたのであった。
バッキンガム宮殿の奥の間に、黄色い三角帽子と赤い袈裟を付けた僧形の男が後ろ向きで立っていた。
部屋には、何やら香のような物が焚いてあり、霊験あらたかな真言を唱えていた。
「パンチェン・ラマ猊下、遅れて申し訳ありませんでした」
その瞬間、黄帽を被った
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