第三部 1979年
孤独な戦い
匪賊狩り その5
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あわて廻る敵陣の中へ、焼夷弾の光は、花火のように舞い飛んだ。
草は燃え、兵舎は焼け、逃げ崩れる賊兵の軍衣にも、火がついていないのはなかった。
半数は、すべて火焔の下に消え、少なくないものが逃亡を始めた。
火は燃えひろがるばかりで賊徒らの住む尺地も余さなかった。
賊の大軍は、ほとんど、秋風に舞う木の葉のように四散した。
燃えたのは、賊徒ばかりではなかった。
13世紀にたてられたジャフナ朝の貴重な古書10万冊や、ポルトガル・オランダ統治時代の建物。
ヒンズー・回教・仏教の秘宝・古跡・名勝。
そのすべてが、灰燼に帰したのだ。
ジャフナの街が、爆撃で燃え盛るころ。
角を曲がり、また角を曲がり、おそろしい勢いで、市外へ向って、疾走して行った車がある。
普段なら、何事かと、すぐ人々の注目をうけるところだが、この宵からの騒動中である。
あれも出撃する部隊か。或いは、各地の味方へ、伝令に行く密使か。
誰あって、怪しむものはなかった。いや、怪しんでいる遑いとまもない空気だった。
「どけ、どけッ」
まるで、敵中へ、斬りこんで行くようなわめきだった。
夜ながら、白い排気ガスを立てて、数台のジープが基地の守衛へ、ぶつかって来たのだった。
ここは、要塞の入り口だ。滅多に通すべきではない。
だが、助手席から降りた一人が、
「非常事態だ」
と、いきなり門の鍵を勝手に外し、さっと押開いて、
「それ行け」
と、すぐまた助手席に跳び乗るやいな、まるで弾丸のように駆け抜けて行った。
もちろん、警備兵は、
「待てっ」とか「何者だっ」
と、咎めることも怠りはしなかった。
しかし、次々と、関門を駆け抜けてゆくジープの運転手は、
「敵襲だっ、敵の襲撃だ」
と、呶鳴って行くので、時しも非常時なので、警備兵も、無下なこともやりかねて、ついその後の闇に仄白く曳いている前照灯を見送っていた。
ところが、また再び、同じような車の音が、町の方から聞えて来た。
ぞくぞくと、かたまり合って、駆けて来る軍靴のひびきも耳を打つ。
忽ち、眼に見えたのは閃々たる銃剣の刃、機関銃、自動小銃、それから対戦車砲なども入り交じった100人ほどの軍隊だった。
「警備兵、警備兵ッ。
たった、いま敵国のスパイが、基地から逃亡した。
市街を警備する全部隊をもって、追撃するよう命令を出せ!」
警備を突破したのは、総勢100名の、GRU特殊部隊であった。
彼らはマサキがラトロワたちを救出している間に、町中にビーコンを設置して、ソ連の戦術機隊が無事爆撃できるようにした準備をしていたのであった。
そして、行きがけの駄賃として、『イーラムの虎』が蓄えた金銀財宝やドル紙幣を根こそぎ持ち去った。
ソ
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