七、 夢を見るといふことはそもそも特異点の存在を暗示させるものである
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――三島由紀夫のやうに己の首が斬首される夢を見た。その時、私の首は一太刀では切り落とせずに、何度も何度も日本刀で切り刻まれ、やっとのことで胴体から切り離されたのだ。夢の中の私の分身はそれに対して何の疑問も抱かずに唯、指を銜へて、まるで他人事のやうにその様を凝視してゐるのみなのであった。しかし、その後味の悪さといったならば、筆舌に尽くし難い。ところが、夢は夢の論理が何よりも優先するからこそ、つまり、私の意思とは無関係に、或ひは私は夢の論理に絶対服従故に夢の秩序が私に先立つ事態が進行するからこそ、尤も、私が見る夢でさへ、私は夢に対して何の疑念も抱かずにその不合理を受け容れてゐるといふ、唯単に眼前で進行する夢の事態を丸ごと受忍するからこそ、此の世に特異点が存在することを暗示するといへる。特異点とは説明するまでもないが、至極簡単にいへば、分数の分母を限りなく0に漸近させ、遂には分母が0になった途端に現はれるであらう摩訶不思議な世界のことをいふのであるが、分数の分母が0の時、それは数学的には定義できず未定なものとして、つまり、それが特異点の定義の一つであるが、私は特異点が出現したその時点で現出するであらう世界は夢に近似した世界だと看做してゐる。それは思ふに夢はそもそも因果律が破綻してゐるが、特異点でも因果律は破綻してゐる筈である。特異点は質料と形相の備はった形ある有が多分に無限大へと、つまり、この世の摂理からしてあり得ぬ有から無限大へのそれは到底不可能な変化できぬものへと存在が光速を超えた速度で爆発的膨脹をしていくことかもしれず、有が無限大へと超高速で膨脹していくといふことは、多分に特異点へと突き進むその場には、その前段階としてBlack holeが現はれ、Black holeとは巷間で語られてゐるやうに光すら逃れ出られぬといふことは、裏を返せばBlack holeは物質で充溢した世界といへ、また、Black hole内ではこれまた因果律が破綻しかけた世界であると想像すれば、その想像をすこぶる単純に数直線状に延長するが如くに想像を羽撃かせると、特異点では光が充溢して因果律が破綻した世界といふものと看做せなくもない。それは正しく夢世界と相似形を成した世界といへ、夢を見られるといふことは、即ち特異点の存在を暗示するといへる。さうでなければ、「私」は夢に対して全くの影響力がなく、夢の論理に対して絶対服従する世界を表出できる訳がないのだ。然し乍ら、幻像を以てして特異点を語る虚しさにも言及しておかねばならぬ。夢の光景をして特異点の存在を暗示するとしかいへぬ口惜しさ。それは映像で以て特異点のなんたるかを語ってゐるのであるが、それでは、然し乍ら、何も語ったことにはならず、特異点といふものに全く漸近してゐないことに等しいのである。頭に過る映像に依拠
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