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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
第八十一話 戦い、その後
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った。寵姫の身内というのはそれほど重い物なのだ。だが私の艦隊なら何の問題もない。卿を呼べば同時にグリューネワルト伯爵夫人も一門の手の中に納める事が出来る。ブラウンシュヴァイク公もお認め下さったし艦隊も強化出来る…正に一石二鳥だった」
 伯は一旦言葉を止めると、窓の外に目を向けた。窓の外には庭が広がり、そこでは伯の愛娘が女中と遊んでいた。
「実は、参謀としての卿にはあまり期待していなかったのだ。聞こえて来る卿の噂はひどい物ばかりだったからな。だが蓋を開けてみればどうだ、見ると聞くとでは大違いではないか。多少取っ付きにくい所はあるが、掘り出し物と思った」
 俺の知らない所で、そんなにひどい噂が流れていたのか…誰にも相手にされない訳だ。
「ありがとうございます。小官も全く勝手の違う場所での勤務でしたので、猫を被っていたのは間違いありません」

 伯爵は笑いながら続ける。
「猫を被っていた、か。今考えると納得出来るな…卿は帝国の現状を快く思ってはいないのだろう?」
「その様な事はありません。小官を現在の地位につけてくれた帝国には感謝しています」
「卿は隠すのが下手だな。卿が推薦した者の顔ぶれを見れば分かるのだ。推薦する場合、卿自身に近しい者や、同期生、卿が世話になった者に近しい者…いわゆるコネだな、そういった存在を推薦するのが普通だ。だが卿は違う、純粋に能力のみの推薦だ。そして卿の勤務来歴を見れば分かるが、直接関わり合いのある者は皆無だ。しかもリストの中には爵位のある貴族の子弟は居ない。その様な者達を推薦してくれと言われれば、疑問が沸いて当然だろう?」

 …伯爵の疑問はもっともだ、あの時は推薦者の配置変換が滞りなく進んだので、疑われているなどと思ってもみなかった…どう返事すべきだろうか。沈黙は肯定にしかならない、生半可な返しもかえって疑惑を確信に変えるだけの事だ。
「返事に困っている様だな。案じるな、叱責している訳ではないのだ。軍に復帰してからというもの卿と似た様な思いは私にもある。立場上、表には出せないがな」
今更の様に俺を立たせっぱなしなのに気が付いたのだろう、伯は応接セットを指し示した。伯自身もワインとグラスを手に取って応接セットに座る。
「…銀河帝国の神聖にして不可侵なる始祖、大ルドルフ皇帝陛下は、これぞと思う人物や顕著な功績のあった者に貴族の称号を賜られた。果たして今はどうか。帝国が宇宙を統べる様になり長い年月が経ったが、もはや追叙される者はいなくなりその間に階級は固定化し貴族と平民の間には埋めがたい溝が生じてしまった。貴族、特に爵位を有する貴族達は与えられた権利を行使する事と、その自らの権利を守る事だけにしか興味がない。そしてそれを仕方ない事と諦感を持って日々の生活を送る平民達。平民が顕官に着く事はごく稀で、それも貴族階級の
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