第八十一話 戦い、その後
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はミューゼルにあると考える者も多い。理由をお聞かせ願いたい」
冷めた紅茶が喉に心地よい。アイスティーという物を、下の者達が好んで飲む理由が分かる様な気がする。
「あれは優秀だ。だが、その能力を発揮出来ているか…というとそうでは無い気がする。無論、参謀としても優秀なのだが…あの者の能力は集団の頂点に立って発揮される物だ。軍にとっても、あれ自身にとってもそれが良かろうと思う」
「ですが…」
「寵姫の係累に力を持たせ過ぎると後の憂いになりかねない、と申すのだろう?心配いらんよ。今ではあれの姉の面倒はブラウンシュヴァイク公が陰に陽にと見ておられる。それにミューゼル自身も私の部下という立場からではあるが、権力に近付く事の恐ろしさという物を理解している筈だ。滅多な事では妙な気は起こさんよ」
「…分かった、伯がそこまで仰るのであれば、手続きを進めよう」
「長官閣下も、あれを艦隊司令官として手許で使ってみれば、おのずと分かるであろうよ」
5月17日12:00
オーディン、ヒルデスハイム伯爵邸、
ラインハルト・フォン・ミューゼル
「…という訳で、私は一線を退く事にした。突然過ぎるだろうが、分かってくれ」
…伯が軍から身を退く原因は、先日の敗戦とその結果…マッケンゼン艦隊が全滅した事、そして故マッケンゼン中将が特進しなかった事にあろう事は容易に想像出来た。マッケンゼン艦隊はヒルデスハイム艦隊のせいで全滅した、と思われていたから、敗戦の責任はヒルデスハイム伯にある、という静かな声があがっていたのだ。そして作戦を進言したのが俺である事が分かると、その声は静かな物ではなくなりつつあった…作戦失敗の原因は確かにマッケンゼン艦隊なのだ。だが彼等は死を以てそれを贖った…助けられた身としては苦い想いだけが募る。どうしても自責の念に駈られてしまう。そして結果として伯爵が犠牲になった…。
「申し訳ありません、小官のせいで…」
「よい、よいのだ参謀長。私から言い出した事なのだ。それに、こうでもしないとリッテンハイム侯は納得せんだろうからな」
リッテンハイム侯爵とブラウンシュヴァイク公爵…大貴族の権門同士の意地の張り合いが影響しているのは分かるが、それでも…
「だが、良い報せもある。卿の昇進だ。私の進退と引き換えというか…卿がヒルデスハイム艦隊を引き継ぐ。まあ二万隻全てとはいかんがな。艦隊のうち、一万隻を軍に残す。それを中核とした艦隊を卿が率いる。置き土産とでも言うべきか」
俺が中将に…艦隊司令官になるというのか?伯の意図が分からない、わざわざ俺の為にミュッケンベルガーに掛け合ったというのか?
「何故です、何故その様な」
「この二年、私は卿を見て来た。卿は能力はあるが人事上の問題を抱えている。それが影響して、卿を引き取る部署は皆無だ
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