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同盟上院議事録〜あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争〜
自由惑星同盟の最も長い3カ月
元帥閣下たちの政争指導
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宇宙暦796年6月上旬

 統合作戦本部で行われた会議でだされた【シトレ人事案】は激しい動揺を呼んだ。既に地上軍、艦隊総司令部では「新人事案」を議会に出す前に闇に葬るべく、公然とした勉強会から密談・立ち話・そして無数のメモが飛び交っている。
 そこから距離をとっているのはヨブ・トリューニヒト国防委員長の一派だけである。
「よろしいのですか? 国防委員長閣下」
 ドーソン次長、統合作戦本部の事務方の自他ともに認めるトップはヨブ・トリューニヒト国防委員長に呼び出されて心配そうに10も年下の政治家を観察していた。
 それにしても、彼が憲兵時代から関係を深めていた情報部の活動が第7次イゼルローン攻略戦の魔術を下支えしたのであるが、それを自覚しているのだろうか?と彼の周囲の人間は内心首をかしげている。それほどに気が小さかった。
「よろしいともドーソン次長。君は職務に励んでくれればいい。率直に言うと」
 トリューニヒトはトントンとデスクの天板を叩く。
「ここで決定的に軍が割れるのは困るのだよ、軍の首脳部というコップの中で荒れ狂う分には構わないがね。だから私は当面は国防委員事務総局と信頼のおける軍人たちに静謐を望む」
 職務を円滑に回すことが第一だよ、と付け加える姿もどこか洒脱さを醸し出していた。

「袖口が濡れることもありましょう」
 ドーソンは忠誠心から警告を発する。
「構わないとも、今は最高議長閣下と同盟市民諸君に敬虔なドブ攫いの姿をお見せする時期だからね」
 トリューニヒトは。気は進まないがそれも政治業で利益を得るためには必要だからね、と苦笑を浮かべた。

 自由惑星同盟の政治に明確な支配者はおらず、累卵の連立によってかろうじてサンフォード政権は成り立っている。
 帝国に抵抗するために力強く行政権を行使するはずのオパールビルの内部では、無数の利益団体を代表する派閥によって議論が行われている。
 ヨブ・トリューニヒトは浮動票が基盤ではあるが、同盟地上軍や構成邦軍、そして軍官僚を支持基盤につけている。シトレがロボスに勝ちそうになればすかさず仲裁に入る必要がある。

「それにしても、あのシトレがよくあそこまで騒ぎを引き起こしたものだ」

 本来であればこれほど騒ぎになることはないはずである。なにしろ総選挙前に駆け込みで行われる軍高級幹部の人事とはいえ、シドニー・シトレが軍令の長を継続することに異議を唱える人間はごく少数だ。なにしろ30年近く自由惑星同盟全体を重病人としてきた略奪と殺戮の”難攻不落の蛇口”であるイゼルローン要塞を奪還し”難攻不落のダム”を構築する機会を創ったのである。新たな最高議長とよほど折り合いが悪くなければ変更となることはない。
 だがシドニー・シトレの提示した案は同盟地上軍の最高位を実質的に
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