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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
敢闘編
第八十話 誤算
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ヤンさんの話を聞いている皆がアッという顔をした。あまりにも単純過ぎて、皆気がつかなかったのかも知れない。そうなんだ、我々がいる以上ラインハルト達は勝手に撤退は出来ない。我々の増援が向かっている、という事実を知ったであろう今なら尚更だ。
「確かに帝国は撤退出来ない…しかし、しかし敵が撤退出来ないのであれば、カイタルではなく既に出撃しているであろう味方の艦隊に連絡を取った方が良かったのでは…」
「司令官がカイタルに平文で通信を行ったのは、確実に帝国艦隊に我々を攻撃させる為だ。出撃した艦隊と通信を行って傍受されたら、こちらの意図がバレてしまう。増援がカイタルを出たのは十四日。既にボーデン宙域中心部には到着している頃だろう。だが帝国艦隊はそれを知らない。傍受した通信内容から、我々の増援の到着は明日の夕刻頃と考えているだろう」
 ラインハルトがこれにひっかかったら何を考えるか…今有利なのは我々なのだから、敵の増援到着前に増援の目的そのものを消してしまえばいい…、とでも考えるんじゃないだろうか。ラインハルトは恐ろしく有能で果断な男だし、奴を支えるキルヒアイスもまた同様だ…我々を撃破できる可能性が少しでもあれば、危ない橋を渡る可能性は大いにある。
「このまま推移すれば、帝国艦隊はあと四時間程で我々を捉える。今、彼等は圧倒的に有利だ。我々を殲滅しさえすれば、此方の増援艦隊の目的は失われる。増援も退かざるを得ないと考えるだろう」
声にならないざわめきが聞こえる中、ワイドボーンが再度口を開いた。
「参謀長の仰る通り、我々の増援は既にボーデンにいるでしょう。ですが彼等は我々の意図を知りません。確かにグリーンヒル閣下は囮になれと命令されましたが…増援の艦隊と事前の連絡もなく連携すら不確かでは、成功するとは思えません」

 実はカイタルへ平文での通信を行った後、現在の実情と、この後の作戦案を暗号電でグリーンヒル大将に直接送ったんだよ…。増援の各艦隊には、我々は囮に徹する、戦況を伝える広域通信が開始されてから救援に来てくれる様に伝えてくれ、ってね……。
 第九から第十一艦隊の司令官達は…コーネフ、チュン、ピアーズの各提督達…コーネフ提督は昨年の戦いで活躍出来なかった事を悔しく思っているだろうし、何より高齢だ。華々しい勝利で軍歴の最後を飾りたいだろう。チュン提督は確か、ウランフ提督の副司令官をやっていたな。アニメではアムリッツァ会戦の一瞬しか映らなかったけど、中々頼りがいのありそうな印象だった。そしてピアーズ提督…エル・ファシルで一緒だったピアーズ司令だ。今は艦隊司令官…。我々が囮として帝国艦隊を引き連れて来れば、提督達はどんな迎撃体制を構築するか…三個艦隊四万五千万隻、対する帝国艦隊は一万六千隻程…負けたら恥ずかしいどころではない、普通に考えれば負けるはずがないのだ。
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