第五話 黒猫団と…
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たあと、再び顔を伏せた。
俺は懸命に言葉を探し、工夫のないセリフを口にした。
「…みんな心配してるよ。早く戻ろう」
サチは何も答えない。
一分か二分待ったあと、俯いたままのサチの囁き声が聞こえた。
「ねえ、キリト。一緒にどっか逃げよ」
「逃げるって……何から」
反射的に聞き返した。
「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから。……この世界から」
「それは……心中しようってこと?」
俺は恐る恐る訊ねた。
「ふふ……そうだね。それもいいかもね」
サチは小さく笑い声を洩らした。
俺に座ることを促すと、ポツリポツリと話し始めた。
死ぬ事がとても怖い事。
その恐怖により眠れなくなった事。
そして、俺にこう聞いてきた。
何故こんな事になったのか、何故ゲームから出られないのか、何故ゲームで本当に死ななければならないのか、こんな事をした張本人に、一体どんな得が有ると言うのか、そもそもこんな事に……何か意味が有るのか。
俺はこの質問に個別に回答することは可能だった。
しかし、彼女がそんな答えを求めているわけではないことくらいは、俺にも解った。
懸命に考え、俺は言った。
「多分、意味なんて無い……誰も得なんてしないんだ。この世界ができたときにもう、大事なことが終わっちゃたんだ」
嘘をついた。
俺は少なくとも黒猫団で強さを隠して潜り込むことで密かな快感を覚えている。
そういう意味では俺は得を得ている。
そして、俺がこの時口にできたのは嘘で塗り固めた一言だけだった。
「……君は死なないよ」
「なんでそんなことが言えるの?」
「……黒猫団は今のままでも充分に強いギルドだ。マージンも必要以上に取っている。あのギルドにいる限り君は安全だ。別に無理に剣士に転向することなんてないんだ」
サチは顔を上げ、俺にすがるような視線を向けた。
「……ほんとに?ほんとに私は死なずに済むの?いつか現実に戻れるの?」
「ああ……君は死なない。いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで」
そんな説得力の欠片もない、薄っぺらい言葉であったが、サチは俺の近くににじり寄り、俺の左肩に顔を当てて、少しだけ泣いた。
だが、俺はこの時気付かなかった。
俺達を見ている視線に。
ただ、獲物を見つめる猛禽のような人殺しの眼が俺たちを狙っていることに。
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