第一章 グレンダン編
シキという武芸者
シキ・マーフェス【リメイク】
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たのをシキはまだ覚えていた。
似ていたのだ、シキの顔が、シノーラという女性が。真っ黒な黒髪、挑戦的な瞳、顔の造形、目の色が緑ではなく黒という点と、癖があるシノーラのとは違い癖がない直線的な髪の毛を持つ点を除けばほぼ類似していた。
シノーラ自体も驚いていたのか、二人は数秒ほど沈黙したあと大声で叫んだ。
それ以来、街を歩けば高確率で出会うようになった。
「冗談言わないでください!」
「冗談じゃないわよ〜、だってこんなに似てるんだもの。黙っていれば親子だわ」
事実、シノーラが親と言っても差し支えないほどシキとシノーラはお似合いだった。それを知っているシキは顔を赤くしながら否定する。
孤児であるシキは養父であるデルクの父親としての愛情は知っているが、母親の愛情というのに触れ合ったことがない。だから戸惑っているのだ。
「うー!!」
「照れるな照れるな! あーん、可愛いなぁ」
おそらくシキの知り合いが見れば、全員が腹を抱えて笑うか。その可愛さに少し危ない考えを出すかもしれない。それほどまで照れたシキの破壊力は強力だった。
「シノーラさん、少し離れてください!」
「まだシキ成分を補給してないー!!」
ギュゥウウウウ! とそんな音がするまで抱きしめるシノーラ。少し青い顔をしながらシノーラの体を叩くシキ……数十秒後、酸欠でぐったりとしたシキを見たシノーラが泣き出し、病院に砲弾のように突っ込んだのは完全なる余談である。
「足りない」
一方、レイフォンも賞金が入った袋を持ちながらそう呟いた。
彼もまた金が足りないと感じていたのだ。
トボトボと歩く姿は先ほど膨大な剄で相手を圧倒していた少年にはとても見えなかった。
そんなレイフォンがふと顔を上げるとこんな張り紙がされていた。
【天剣授受者選定式間近! 最後の天剣は誰の手に】
眠そうなレイフォンの目が見開く。震える手でその張り紙を手に取る。
天剣授受者、それはグレンダンでは最高の称号であり、一度なれば英雄として見られる。何より膨大な金は孤児院を潤し満たす。
天剣になれれば、もうあんな場面を見ずにすむ。
「……天、剣」
レイフォンはその輝かしい未来をもたらすであろう名前を口にした。
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