本編番外編
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此処ではない他の世界で・伍
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いつの間にか放され、後頭部に男の手が回されていた。
「いやだ、放せ……っ!!」
触れられていること自体が耐えられない。
体を半回転させて、男の腕を振り払い、急所目掛けて蹴りを入れたが腕で塞がれる。
ありったけのチャクラを込めて相手の体に拳を叩き込もうとした手は、男の手に掴まれて、そのまま木へと叩き付けられる。
怪力の余波で、乾燥した幹が固い音と共に細かく砕かれた。
「……一つ聞こうか、異世界の千手柱間。貴様は――……何を望む?」
「取り敢えずお前から解放されて、私の大事な弟妹達のいるあの世界に還ることかね」
今更私に何を訊きたいのだ、この男は。
拘束から逃れようと足掻くが、関節を抑えられているせいでちっとも動けない。
それでもこんな輩に屈してたまるかと、視線だけでも反逆の意思があるのだと示してみせる。
「……では重ねて聞く。元の世界とやらに帰って後、貴様はどうするつもりだ?」
「何としてでも弟妹二人を守り抜き、一族の長となるべく鍛錬を重ねるに決まっている」
「――……それだけか?」
「……何を訊きたいのかは知らんが、今の私が言えるとしたらそれだけだ」
そうだ。こんな場合ではない、早く帰らないと。
早く帰って、一族のために、何よりも弟妹達のために戦わないといけない。
せめてあの子達がこれから泣く事が無い様に、私が守らないと、守ってあげないと。
口の端をきつく噛んで、漏れ出してしまいそうな郷愁をぐっと押え付ける。
「…………そうか。それだけ、なのか」
男の静かすぎる声が、そっと洞窟内を木霊する。
静謐な声音に含まれていた感情は、失望と落胆、侮蔑、それから――。
「貴様は、その程度なのか――だとすれば、わざわざオレが手を下す価値もないな」
男の声が、耳元に落とされる。
熱い吐息が耳朶をくすぐり、不御を孕んだ空気が怯える様に震えるのを感じた。
「――――……残念だ」
ぞっとする程冷淡な呟きが耳元に落とされたかと思うと、首筋に冷たく固い物が触れて。
――――鋭い痛みが奔ったのと同時に、視界が真っ赤に染まった。
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