結梨
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可奈美は手にしたお盆に乗せた料理を、最奥の響から置いていく。
「友奈ちゃんはウサギさんうどんだよね」
「うどん! やっぱりこれだよね!」
「で、真司さんはウサギステーキだよね」
「おおっ! これこれ! ……ウサギさんステーキってメニューだけどホントにウサギなのかこれ?」
「違うけど、細かいことは企業秘密だよ」
可奈美は悪戯ぽく微笑み、えりかと結梨の前にコップを置いた。
「はい、えりかちゃんと結梨ちゃんには私からサービスだよ。紅茶どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます。衛藤さん」
「ありがとう!」
結梨は両手でコップを手にし、「フーフー」と息を吐きかける。ゆっくりと口にし、「温かい……」と安心したように言った。
「すみません! 注文お願いします!」
「はいただいま! それじゃ皆、また後で!」
可奈美はまた忙しなく、他の座席へ注文を取りに行く。
入れ替わりでやって来たチノが、盆に乗せて今度はハルトたちの料理を持ってきた。
ガッツリとしたかつ丼を注文したコウスケ、カレーを頼んだえりかと結梨。一方ハルトに置かれたのは、簡単な豚汁だった。
「ハルトさん、それだけでいいんですか?」
「ああ。平気だよ。あんまりお腹空いてないから」
ハルトはそう答えて、豚汁を啜る。
やはり、味は感じない。それに伴い、美味しいという感覚を分け合う皆が、少し遠くに感じてしまう。
「お兄ちゃん?」
突如、隣の結梨が丸い目でこちらを見上げてきた。
「どうしたの?」
「どうしたのって、何が?」
手慣れた平静を装う顔。
十年以上、怪物であることを隠して人間として生きてきたハルトにとって、これで誤魔化しが利かなかったものなど、そうそういない。
だが。
「お兄ちゃん、ちょっとだけ寂しそうだから」
その時。
ハルト、真司、コウスケ、響、友奈。
ハルトの正体を知る者たちの間に、沈黙が走った。
それは、ココアが再び結梨を妹にしようとしにくるまで続いた。
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