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冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
甘言 KGBのベアトリクス誘拐未遂IFルート 
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「いや、放してっ」
「まあ、良いじゃないですか。
たしかに見ず知らずとおっしゃるが、私と一緒に行けば知らぬ場所ではありますまい。
それに、夫君も後からお呼びしますから」
「主人の客か何か知らないけど、さっさと帰って、帰って頂戴!」
込み上げて来る憎悪を隠そうともせず、ヒステリックに叫んだ。
「確かに誰しも、初めのうちは、嫌がりますが、一度、違う世界を知れば、驚くものですよ。
私が、本当のロシアというものを、お見せしますよ」
「馬鹿っ。変態」
憎悪にも似た恐怖が込み上げて、ベアトリクスは男の横面を激しくひっぱたいた。
「貴女のその美しい手で、私の頬を打つとは……では報いて差し上げましょう」
不敵の笑みを浮かべた男は、グッと力を入れて、ベアトリクスをドアから引き離そうとする。
「誰か!」

 正に、近隣から軍の護衛が駆け付けた時、ベアトリクスは(くだん)のKGB工作員と言い争っていた。
デュルクは、サッとスコーピオン機関銃を取り出すと、半自動にして引き金を引いた。
――スコーピオンとは、チェコスロバキアのチェコ兵器廠国営会社で開発された短機関銃である。
東独では護衛や暗殺任務用に購入していた――
爆音が、早朝のパンコウ区に響き渡る。

 KGB工作員の男は、忽ち驚いて、周囲を見渡した。
警官たちが、手に手にバラライカことППШ(ぺーぺーシャ)41機関銃やツェラ・メーリス・P1001-0拳銃――東独では、ワルサー社のPP拳銃が特許侵害をされ、違法生産されていた――を持ち、住宅街の周辺を通せんぼしている。
しかし、KGB工作員は、相手の群れに度胆を抜かれてしまった。
玄関から退いて、道路の奥に止めてあるソ連製のチャイカに逃げ込むも、あえなく御用となった。


 この事件は、たちまち、早朝の官衙に広まった。
閣議を開いていた政治局員たちの耳に達するや、議長はアベールを通産省から呼んだ。
「なあ、アベール。お前さんの娘たちは、少し不用心過ぎたんじゃないか」
と、紫煙を燻らせながら、訊ねるも、アベールは、おもしからぬ顔をして、
「護衛はユルゲン君が、たっての願いで、減らしたのだがね……」と嫌味を言った。
議長は苦虫を?み潰したような顔をして、
「あの馬鹿者が……、手前の女房を危険に曝すとは。後で俺から叱っておく」
と、息子の様に思っているユルゲンの代わりに、頭を下げた。


 夕刻、ユルゲンが、ロストックから帰ってきた。
折目も新しい将校用のレインドロップ迷彩の野戦服姿で、玄関から駆け込んでくる。  
「ベアトリクス!」
彼は寄って、いきなりその花の顔を、抱きしめた。
「どうしたの」
 駆けよって来た事よりも、この乱暴に似た力の方が、遥かに彼女を驚かせたに違いない。
姿態(しな
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