暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
甘言 KGBのベアトリクス誘拐未遂IFルート 
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
デュルクさん、怪しいソ連人が……」と言い終わらないうちに、無線機で周辺の護衛に、
「緊急事態発生」と告げるや、チェコ製の機関銃を車のトランクから取り出し、
「アイリスディーナ様、行きましょう」と、彼女を車に乗せ、表側に回った。

 ここで、ヨハン・デュルクという人物について語っておこう。
彼は、東独軍唯一の特殊部隊である、第40降下猟兵大隊の出身。
第40降下猟兵大隊は、特殊任務や落下傘降下の他に、党幹部や閣僚の護衛任務も任された。
 デュルクは、軍に在籍中は狙撃手で、夜間警戒任務に優れた成績を残した。
そして、自然と『兎目のデュルク』とあだ名され、大隊の兵達から畏怖された。
身丈はそそり立つ山の様に大きく、また屈強な肉体は引き締まった痩身であった。
アベール・ブレーメのたっての願いで、ベアトリクスの身辺警護責任者の立場に就く。
10年近く、彼女の傍に仕え、全幅の信頼を得た人物でもあった。

 送り込まれたKGB工作員は、そんな精鋭が護衛しているとも知らず、任務を侮っていた。
東ドイツは、昔と変わらず、今もソ連の為すがままの国家。
国家保安省(シュタージ)の前長官、エーリヒ・ミルーケも、モスクワの許しなくば、厠に行けぬ状態であった。
 だから、今回の事件もKGBがシュタージを叱れば、もみ消せる。
そう思って対応した。
だが、ソ連に阿諛追従したホーネッカーもミルケもすでに権力の座には居ない。
KGBが一から育てた対外諜報部門責任者のミーシャも、獄窓(ごくそう)
 ミーシャとは、本名、マルクス・ヴォルフというシュタージの高級幹部である。
シュタージ対外部長を32年間歴任し、ハインツ・アクスマン少佐の元上司にあたる人物であった。 
 そして一番の間違いは、シュミットが鬼籍に入った事を忘れていた事である。
シュトラハヴィッツ少将が関与した無血クーデターによって、全てが変わっていたのである。

一事が万事、スローモーな、お国柄であるソ連と違って、せっかちなドイツと言う事を忘れ、
「そんなこと言わずに、どうか一緒にソ連に行きましょうよ」と説得していたのだ。
相手が、祖父の代から、ソ連と通過(ツーカー)の仲であるアベール・ブレーメの娘。
出来れば、無傷で連れて行き、ゲルツィン大佐の前に差し出したい。
そしてあわよくば、この小娘を褒美(ほうび)として我が物に出来るのではないか。
そんな(よこしま)な考えが、工作員の男にあったのだ。

「さあ、どうぞ、我等が迎えの車で、ソ連軍基地へ」
男は、ベアトリクスの左手を両手で包んだ。
美しい瞳がカッと見開かれて、そのまま凍り付いた。
「嫌っ。私は人妻よ。見ず知らずの人に誘われて、そんな所などへは、行けません」
と、思いっきり、掴まれた手を振って、叫んだ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ