第百十七話 運動会が近付きその十四
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「いや、本当にね」
「湯口事件といい漱石さんのご家族のことといい」
「漱石さんの作品って陰があるのよね」
部長はこうも言った。
「私が思うに」
「そうなんですね」
「こころとかね」
夏目漱石の代表作の一つである、親友を出し抜いて愛を勝ち取った者がそのことから親友を自殺させそのことで一生悩み苦しむ作品である。
「吾輩は猫でもあるでもね」
「暗いですか」
「最後死んでるからね」
主人公の猫がというのだ。
「明るい作品でも」
「陰がですか」
「あるのはね」
それはというのだ。
「やっぱりね」
「ご家族のことがありますか」
「あの人結構色々あって」
それでというのだ。
「被害妄想でDVでね」
「DVですか」
「奥さんや息子さんに暴力振るってたのよ」
「最低ですか?それって」
「今だとね」
部長も否定しなかった。
「奥さん周りから離婚勧められたそうだし」
「暴力が酷くて」
「癇癪持ちでね」
「それで、ですか」
「それでね」
「すぐかっとなって」
「手が出たらしいのよ」
ご子息をステッキで滅多打ちにしたという逸話もある、外で行ったが周りはその行為に唖然となったらしい。
「そうした人でね」
「そうなった原因の一つですか」
「ご両親のことを知ったことがね」
「あったんですか」
「そうかも知れないわ、イギリス留学で鬱になったこともね」
「関係してますか」
「他には結核になったかも知れなかったし」
その疑いがあった時期も存在していたのだ。
「ご家族の真実もね」
「それを知って人生に陰が落ちたんですね」
「そうみたいよ」
「そうした人でしたか」
「もっと知ったらいけないこともあるし」
世の中にはというのだ。
「戸籍謄本とか怖いらしいわ」
「お役所に保管されてる」
「ご本人すら知らないことをね」
「書かれてるんですね」
「そうだからね」
「知らない方がいいことはですか」
「世の中にはあるの。そのことをね」
部長はかな恵に強い声で話した。
「かな恵ちゃんも覚えておいてね」
「そうします」
かな恵は確かな声で頷いて答えた、そして湯口事件については調べなかった。だが後日知って非常に暗澹たる気持ちになったがその時は受け入れることが出来てそれも人間そして人の世のことだと理解したのだった。
第百十七話 完
2024・1・8
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