第97話 見えて見えないもの
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そうでなくとも今の地位と権限の許す範囲を超えて、より政治に干渉するような行動することができれば、もしかしたら可能なのだろうか。
「ボロディン先輩、酔ってるんですか?」
トントンと、隣に座るワイドボーンが肘鉄で俺の左脇を突く。俺が酔ってないと口には出さず首を小さく振って応えると、でしょうね、と小さく溜息をついて言った。
「ウィッティ先輩もヤンも言ってますが、突然前触れもなくぼんやりするのは軍人としては良くない癖ですね」
「……やっぱ、そう思うか?」
「まるで動力源が止まった人形のように見えるのが不気味です。突発性難聴の検査はされたんですか?」
「別の人からも勧められたんでね。異常はなかったよ」
耳に機械を当て、さらには血液検査も含めて散々調べたが、お酒の飲み過ぎには注意してくださいという余計な診断がついた以外は、特に問題はなかった。自分でも悪癖だとは思うが、薬や習慣で治るようなものでもないので俺はもう諦めた。
「まぁ、戦場にあってもこれまで特に不自由なく仕事で来てたからな。死ぬまでこの癖とは付き合うよ。それより、お前達の方がどうなんだ? ちゃんと健康診断は受けているのか?」
「一応は。ヤン達は知りませんが」
ワイドボーンの冷たい視線がラップとヤンに向かうと、二人とも肩を竦めるように視線を逸らす。軍規としての健康診断は軍務に圧迫されて正直おざなりだし、地球時代よりも (生体移植技術などの)外科的な治療技術は格段に進歩しているので、戦地における戦傷治療に比べ平時は規則正しい生活に従っていることから、日常健康に対する軍人の関心はかなり低下している。
「ヤン、それにラップ。悪いことは言わない。ハイネセンにいるうちに健康診断とは別に精密検査受けとけよ。活力に溢れて無敵のような若い奴でも、変異性劇症膠原病なんてわけわからない病気に罹って、高熱と発汗でマトモな治療もできず体が内側からボロボロになってあっさり燃え尽きて死んじまうなんて話もあるらしいんだ」
「は、はぁ……」
「戦闘で死ぬのは、軍人としてはまぁ職業病のようなものだから半ば仕方ないとしても、その前に直せる病気で死んじまうのは流石に勿体ないだろ。一つしか命はないんだから、大事にしてくれ」
お互いに顔を見合わせるヤンとラップを他所に、俺は真正面に座るジェシカに向かって言った。
「民間人の貴女に頼むのは本当に申し訳ないのだが、このクソガキ二人の尻を叩いてやってくれないか。先輩のいうことに従わないし、小賢しくて生意気なんだが、どうでもいいことで失くすにはあまりに惜しい奴らなんだ」
俺がそう言って小さく頭を下げると、この中では一番の年下であるはずのジェシカの顔に、母親のような慈しみが込められた笑みが浮かぶ。
「まぁ……そのあたりはお任せく
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