第97話 見えて見えないもの
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「……先輩の方法論はあまりに突飛で実現性に疑問がありますが、仰ることは理解できます。しかしそれだけのハードウェアに対する投資について、軍首脳部も同盟政府も了承するとは思えませんが」
何しろアルテミスの首飾りには首都防衛という名目で、軍事予算とは別の分野からも予算が投じられている。一個艦隊は優に揃えられる額で、開発費もさることながらそのメンテナンス費も大きい。どうやって帝国の大貴族がフェザーンの利益を乗せた分の代金を用意できたのか、聞いてみたい気もするくらいに膨大だ。
「ワイドボーン。このまま毎年三〇万人以上の軍人と一万隻近い艦艇を損失し続けるのと、無人の軍事衛星を破産覚悟で投げ続けるのと、どちらが『経済的に』まともだ?」
「金額的には艦艇を損失し続けている方が安いとは思いますが……いえ、違います、先輩が仰りたいのはそういう事ではない……」
「技術的に出来ないことではなければ、幾らでも考える余地はある。ひたすら考えるのは我々参謀将校としての使命だろう。その上で、我々軍人は戦争の勝ち負け以上に、この国家が生き残ることを考えなければならないんじゃないか?」
それを考えるのは政治家の仕事だ。そう言ってしまえば簡単だが、政治家は政治のプロであって軍事戦略のプロではない。その上で軍事は国家の存続の為に存在し、国家経済に従属することを政治家だけでなく軍人も理解するようになること。この点において、俺は間違いなくジョアン=レベロやホワン=ルイと同じ立場だ。
ワイドボーンが恐らく俺の言いたいことをたぶん理解してくれた、と思うのは早計かもしれない。彼がどういうキャリアでワーツ分艦隊の参謀長になったかは分からないが、何もなさず前線で金髪の孺子の餌食にする必要はない……もう内勤になった俺が、ワイドボーンを部下にできるとも思えないし、もしかしたら上官になるかもしれないが、何とかフォローできるようにありたい。
「ここにいる人達、みんな軍人なのに軍人らしく見えないですけど……」
ワイドボーンもラップも、それにヤンですら俺に対して鋭い視線を向ける微妙な雰囲気の中で、ジェシカがトルコワインを手に取りながら俺に向かって首を傾げて言った。
「素人の私でもボロディンさんがまるで政治家のように見えるのは、どうしてなんでしょうね?」
『あぁ〜そりゃなぁ〜』といった緊張感からの開放が、溜息と共に目の前の同期三人の間に流れたのは、誰がどう見ても間違いなかった。だが言われた側の俺としては逆に胃が重くなる。
つまるところ、俺の究極の目的は俺がこの世界にあるうちに、自由惑星同盟が滅ぼされないこと。その為には何としても金髪の孺子の銀河統一という野心を踏みつぶさなければならない。しかも限られた期間の内で達成するには軍事力でしかそれは解決できない。だが……
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