第97話 見えて見えないもの
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い。駐留艦隊と要塞守備隊、機動戦力と根拠火力のコンビネーションが回廊の制宙権を構築し、戦争の一つの形態として、同盟に対する軍事投射能力を作り上げているに過ぎない。
「イゼルローン回廊出口の制宙権を長期間安定的に確保すること。これが『戦争を終わらせる』という問いに対する、俺の回答だ」
制宙権を安定的に確保できる状況下であれば、穴から出てくる帝国艦隊(モグラ)を叩き続けるだけでいい。軍事生産基地能力のあるイゼルローンがある以上、帝国軍の補給線は短いが、回廊の出口は扇状地のような空間であるから、出てくる帝国軍側としては自在な兵力展開を行うことは難しい。
シトレに話したこととほぼ同じだが、長期間安定的に確保している間に、イゼルローンとほぼ同値か、それ以上の要塞を回廊開口中央部に設置出来れば、あとは定期的な機雷敷設と航行妨害設備の配置で回廊を封鎖することができる。
「しかしどうやって、長期間制宙権を安定的に確保するんです? それこそイゼルローンから駐留機動艦隊が毎日妨害に来ませんか?」
俺の回答に考え込み始めたワイドボーンを他所に、興味深そうな表情でラップが聞いてくる。
「妨害を撃退するだけの大兵力を前面展開するには、交代を含めても中央の制式艦隊の数では足りません。戦線維持の為には巨大な補給線も必要です。現在ある戦略輸送艦隊をフル動員したって無理ですよ」
「同盟軍基本法に制宙権を確保する為には、艦隊を使わなければならないなんて条文があるわけじゃないさ」
俺がラクのグラスを掲げると、ラップは首を傾げるが、ヤンは「あ」と思いついたように声を上げる。恐らくヤンの頭の中で惑星ハイネセンの軌道上を巡る半永久的に動く全自動軍事衛星の姿が浮かんでいることだろう。
まぁ今ある一二個だけ持っていくなんてケチな事は言わず、要塞規模の戦略拠点を構築するまでは首飾りを二〇〇個でも三〇〇個でも量産して、回廊出口に敷設する。岩や氷にぶちのめされるようなことがあっては面倒なので、若干の機動性の向上を付与する。漏れ出てきそうな帝国艦隊だけは、艦隊で削り取っていかねばならないだろうが、展開する戦力はずっと少なくて済む。
移動要塞があるのならばもっと話は早いが、機動防衛ドクトリンに縛られている今の同盟の技術力ではおそらくそれが限界。原作のヤン艦隊の連中は危険視しつつも、戦略的には評価していなかったが、俺は可能ならシャフトを事前に誘拐するか買収するかして、同盟に亡命させられないかと思うくらい評価している。
要塞に要塞をぶつけてぶっ壊し、新しい要塞を持ってくるなんてコストがぶっ飛んだ発想を生み出すまでもなく、恒星間航行能力を持つ永久要塞の価値は、設営箇所での建造時間という要塞最大の欠点を見事に帳消しにし、一瞬で星系規模の空間を制圧することができる。
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