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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第97話 見えて見えないもの
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気位や時間よりも、食欲と味覚を満足させたい人向けで知られた店で、ハイネセンだけで五店舗が展開している。ちょっとチップを払えば特定の席の予約も、特別料理も出してくれる……そんな店のやや奥のボックス席で、ハイネセンに帰還してようやく後始末が終わった第八艦隊作戦参謀の一人が、ボサボサ髪の上下ジャージ姿の呆れ顔でチャイを傾けながら呟いた。

「先輩の名前が発表された艦隊幕僚リストになかったものですから、先輩・同期の間ではちょっとした騒ぎになってますよ。またなんか上層部に嫌われそうな余計なことしたんじゃないかって。ですが心配無用でしたね」

 士官学校の時に比べて少しだけ苦労が顔に出始めた第九艦隊第二分艦隊参謀のアメリカン優等生が、ちょっと名の知れたブランドものの長袖ポロシャツ姿で、ビールとシシ・ケバブを両手に持ち笑い声を上げる。

「しかしボロディン先輩を当局内勤とは。こう言っては何ですが、上層部の連中は一体何を考えているのか……」

 明らかに眉間に皺が寄っている統合作戦本部戦略一課の金髪がビシッと決まったエリートが、入店早々ネクタイと第一ボタンを外し、ブランド物の真っ白なYシャツ姿でイラつきの雰囲気を隠すことなく、ミディエ・ドルマを口にほうばりながら呟く。

「でもご出世されたことに変わりはないんでしょう? おめでとうございます『悪魔王子』殿下」

 紅一点。クラシカルなブラウスとデニムという、なんか凝ったようでシンプルなコーデ姿の音楽学生は、ほっそりとした手を合わせて、俺に微笑みかける。だがどう見てもその顔は、歳上の知人に対するというより同級生へのそれに近い。

 店が店だけに、周囲には軍服を着た明らかな軍人がいるにもかかわらず、このテーブルだけは講師のクチでまだ大学残っている一人を加えた研究室のOB会のような、どこか社会離れしたような雰囲気に、俺はラクを片手に今更ながら弛緩していた。

 六人掛けのテーブルで、俺が奥真ん中、左にワイドボーン、手前中央にジェシカ、ジェシカの右・通路側にラップ、左・壁側にヤン。俺の右にはアッテンボローが来る予定だったらしいが、今日は都合が合わず荷物置きになっている。それでも銀英伝の同盟ファンなら、こういう席で気兼ねなく彼らと話せるというのは幸せというほかない。

 原作通りなら四年半後、第六次イゼルローン要塞攻略戦でワイドボーンが、六年後にアスターテ星域会戦でラップが、七年後にスタジアムの虐殺でジェシカが亡くなってしまうかもしれない。比較的安全な現代日本に暮らしていた俺としては、それはなんとしても阻止したいという気持ちが自然に腹の内から湧き上がってくる。

「このまま明日にでも戦争が終わるって言うなら大歓迎なんだがなぁ……」
 胃に流れ落ちるラクの刺激に思わず零すと、
「それは心の底か
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