第97話 見えて見えないもの
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今後のことを考えてアイランズが(俺をダシにして)連れてきた氏の機嫌を損ねるような真似もしたくない。グヌヌヌという声が聞こえてきそうな感じだが、表情筋が微妙に震えるだけで、結構ですと了解した。
「よろしいのですか?」
アイランズチームとなった俺は、一番ホールでティショットを打とうとするアイランズに顔を向けながら、横に立つラジョエリナ氏に問いかけると、果たして氏は軽く鼻で笑った。
「私はただネグロポンティ氏の作業時間効率を考えてあげただけだよ」
『開かない財布に時間を費やすのはもったいないだろう』を、皮肉たっぷりに運送屋が言うとこうなるのかと、俺は妙に感心した。背格好はまるで違うが、雰囲気はシトレの腹黒親父によく似ている。シャカーンといういい響きに合わせて拍手をすると、氏は苦笑する。
「伸びた背筋がなければ君を軍人と見るには難があるな。以前は大企業のサラリーマンだった、中小企業の跡継ぎ若専務にしか見えん」
「思い上がりの身の程知らずに見えます?」
「いきなり上司が消えて異業種に放り込まれ、はてさてどうしたものかと戸惑っているように見える」
「まったくその通りですからね」
君の番だぞ!というアイランズの声に、俺は笑いに背を震わせながらチェン秘書官からドライバーとボールを受け取りティーグラウンドに向かう。
第一ホール、四一九ヤード、パー四。幅広でほぼ一直線のフェアウェイだが、ティーグラウンドより一五〇ヤードと二五〇ヤード、それにグリーン手前五〇ヤードにそれぞれ小さいバンカー。普通にドライバーで第一・第二バンカーの間まで運べればいいが、グリーン手前が少し狭くなって二打目に苦労する可能性がある。
二日前の一〇時間打ちっ放しを思い出せ。取りあえず真っすぐは飛ぶようになったんだ。ティーグランドで小さく舞っている木っ端など気にする必要はない。イエス、アイアム・モンキー……
カシューンンンンン、と音を立ててボールは一直線に、打ちっ放しでも出せなかった最高の弾道を描きながら……砂の中へと消えていった。
◆
わざとやったわけでもないのに、バンカー、池ポチャ、数多のOB……積み上げられたオーバーの数は参加者ダントツトップ七二に、俺の心はズタズタ。
特に一四番ショートホール、一六九ヤード、パー三で七番ウッドを選んだチェン秘書官は間違ってはいないが、間違っていた俺は勢いよくボールを旗の真横にぶち当てた。当然、物理法則に則りボールは林の中へと消えていく。スピンなんか知ったことないとばかりの中弾道で……
「ゴルフってカップにボールを入れるスポーツだったと思うんですが」
『肉と魚』という、身も蓋もない店名のトルコ風料理店。いわゆる大衆食堂であるが、味は水準を越え、何にも増して量が尋常でない。
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