第97話 見えて見えないもの
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るんだよ、兄さん」
これ『も』一応仕事なんだよな、と苦笑しつつ俺はハワード氏の隣にいる人物を見る。たしか原作には登場していない。髪はグレー。六〇代……いやもしかしたら七〇代かもしれない、肌は僅かに赤みがあるアフリカ系。目尻や額に深い皺が寄りながらも、背筋は真っすぐだし目には活力がある男性。
「こちらはサンタクルス・ライン社のジョズエ=ラジョエリナ顧問だ。以前は同社の統括安全運航本部長をなさっていた」
アイランズ(ウォルターの方)が得意満面で紹介する。そりゃそうだろう。同盟最大級の恒星間輸送企業、その統括安全運航本部長となればただダイヤグラムを組むだけじゃない。船舶の手配・運航宙域のリスク管理・系列関連企業経営・競合他社との船腹量の割り振りなどなど、恒星間輸送本業の一切を統括指揮する人間だ。まさに同盟の恒星間物流の心臓そのもの。
軍で言えば宇宙艦隊総参謀長に戦略輸送艦隊司令官と統合作戦本部戦略部部長と査閲部の一部の権限を加えたようなもの。そんな権力を持つ地位など存在しないが、最低でも大将は固い。一応評議会議員で国防委員会の戦略参事であるアイランズなら、格は相当落ちるが話はさせてもらえるかもしれないが、二六歳のペーペー中佐がゴルフクラブ片手に簡単に口をきいていい相手ではない。
チェン秘書官から事前に聞いた時、こんなコンペになんて人間連れてくんだよ、と喉まで出かかった。相対し思わず額に伸びそうになった右手を下ろすが、ラジョエリナ氏は手を伸ばし片手でガッチリと握りしめてくる。一瞬爺様を思い浮かべたが、握力は爺様のランクより上。ディディエ中将クラスだ。
「ラジョエリナだ。今は捨扶持を貰ってるだけの口うるさい隠居老人だよ。君の名前はサンタクルス・ラインに限らず、多くの船乗りから耳にしておる」
「それは、お耳汚しでした」
「『ブラックバート』をとっ捕まえただけでも、君はあらゆる恒星間輸送企業から企業年金を受け取る権利がある。軍の仕事が嫌になったら、いつでも私に声をかけてくれ。私に図れる便宜なら何でも聞こう」
それは過大評価というべきだし、公式にはブラックバートを捕まえたのは検察庁とマーロヴィア軍管区だ。彼らをやや過激な方法で誘い込んだとはいえ、実戦指揮はカールセン中佐が、工作はバグダッシュが執っていた。俺はいわゆる口舌の徒に過ぎない。なのに白紙の小切手を手渡すようなことを言う。
「あれはアレクサンドル=ビュコック中将閣下の功績です。私はその指揮下にいただけに過ぎません」
そこまで手厚くしてもらう権利は俺にはない……そう言ったつもりだったが、ラジョエリナ氏は苦笑しながらも両手を肩の上に広げて首を振る。
「今やただデカいだけになったサンタクルス・ラインとはいえ、一応それなりに情報収集ぐらいはできるのだよ
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