第97話 見えて見えないもの
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宇宙暦七九〇年 六月 バーラト星系 惑星ハイネセン
澄み渡る青空。南風二メートル。
青々と茂った芝生は心地よい初夏の風に揺られ、大地の息吹を思わせる。左右に並ぶ木々には小鳥が集い、濁りのない池では、魚がのんびりと泳いでいる。
そんなゆったりハイキングに出かけたくなるような丘陵地。だが今、俺の肩に掛かっているのは、チョコレートやドリンクの入ったリュックなどではなく、番号とアルファベットが刻まれた、金属ヘッドが付いた棒一一本。
「君は初心者だからね。このセットはまぁまぁ良い選択だと思う」
着任して五日。早速アイランズ氏から、氏の同僚である評議会議員や氏の実家である金属鉱業系の企業の方々と一緒に『歓迎ゴルフ大会』を開くから是非とも来るようにとのお誘い(命令)があった。ちなみにコースの費用は戦略企画室の研修予算から出ている。
一応エベンスとベイの二人もこの『研修』に誘ったが、二人とも仕事を理由に断った。特にエベンスは礼儀正しくゴミを見るような目であったので、ピラート中佐の言う通りなのは間違いない。軍の良識派というくくりの中でも、より清教徒的なところがあるのだろう。もしかしたらそのあたりが捕虜虐殺の容疑のあるアラルコンとの不仲であった理由なのかもしれない。
そしてチェン秘書官はというと、普通に朝五時には俺の官舎(と言っても引っ越したばかりの独身士官用二LDKマンション)に迎えに来て、車内で出席者の説明をしてくれている。襟と袖に赤のラインが入った白の上、で黒の革ベルト、ラインの色と同じスポーツスカートの姿は、童顔の女子プロかとばかりに堂に入った姿だが、今日はプレーしない。
プレーするのは評議会議員のウォルター=アイランズと、ジャスティン=ネグロポンティ、あとは大手企業の上級幹部の皆様も合わせた八人。いずれも俺より前から顔なじみの面々らしく、お互いのハンデもある程度分かっているといった風情。
「きみ↑が↓ボロディン中佐か。国防委員会参事のネグロ↑ポンティだ」
査問会の時と同じような口調で上から目線のネグロポンティ氏は、真っ赤な半袖ポロシャツとネイビーのパンツ姿。黒い髪と暑苦しい顔つきはムカつくほどに原作通りだが、口元に特徴的な髭はないので、実際に若いのだが少しばかり精悍に見える。
「アイランズ君が高く評価しているというから、どんな人物かと思ったらとんだ若造じゃないかね。君、どうやって中佐にまで昇進したのかね」
どんなに嫌な奴とでもまずは笑顔で握手できることが、対等な議論の上に成り立つ民主主義国家における政治家の器の大きさと、前世の誰かが言っていたような気がする。取りあえずこの程度の厭味にいちいち反応していたら、今後胃袋がいくつあっても足りない。鉄壁の笑顔で小さく会釈をしたあと、わ
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