第二部 1978年
原作キャラクター編
岐路 ベアトリクスとアイリスディーナ 運命の分かれ道
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1978年7月8日
アーベル・ブレーメは一人、書斎で悩んでいた。
昨日発表された、駐留ソ連軍の東欧から完全撤退。
自分のような親ソ派の官僚は、今後どうなるのだろうか。ふと先行きが不安になっていたのだ。
例えば、KGBの出張所のような立場だった国家保安省。
エーリッヒ・ミルケや、マックス・ヴォルフというKGBが一から育てた人材は、シュトラハヴィッツらの活躍により、一掃された。
自分が今、こうしてあるのは聟ユルゲン・ベルンハルトのお陰であろう。
政治の道具として、幹部子弟に政略結婚させようとしていた娘・ベアトリクスが心から気に入った男に助けられるとは……
どこか、不甲斐無い気持ちであふれていた。
議長はアベールの無二の親友であった。
閣僚の身の上は、普段外出も自由でないが、その日の夕方、暇が出来たので、日頃親しいアーベル・ブレーメの屋敷を訪れていた。
「ご主人はどうしましたか」
30分過ぎても、アベールが顔を見せないので、議長は、すこし不平そうにたずねた。
丁度、出てきたアーベルの妻、ザビーネが答えて、
「奥にいますけれど、先ほどから調べ物があると仰っしゃって引きこもったきり、どなたにもお会いしないことにしておりますの」と、いった。
「それは、変だな。一体、何のお調べ事ですか」
「何をお調べなさるのか、私たちには分りませんの」
「そう根気をつめては、体にも毒だ。
俺が行って来て、みんなと共に、今夜は談笑するよう言ってこよう」
アベールの妻は、驚きのあまり、動きを止めた。
「いけませんわ。無断で書斎へ行くと怒られますよ」
「ザビーネさん、俺はあいつの事なんか、怖くはない。
昔馴染みの俺が私室をうかがったといって、今更、絶交もしますまい」
自分の家も同様にしている議長なので、家人の案内も待たず、主人の書院のほうへ独りで通って行った。
妻ザビーネや女中たちも、ちょっと困った顔はしたものの、ほかならぬ主人の親友なので、夕餉の準備ということで放っておいた。
主人のアベールは、先頃から書院に閉じこもったきり、机によって伏せていた。
どうしたらソ連の後ろ盾のなくなった東ドイツを存続させられるか、国防安保の先行きについて、腐心して、今も怏々と思い沈んでいた。
「おい、寝ていたわけではあるまい」
そっと、部屋をうかがった議長は、そのまま彼のうしろに立って、何を読んでいるのかと、机の上をのぞいてみた。
ミミズの這ったような筆記体のロシア語で、『ゼオライマー』と書いてあるのが見えた。
議長が、はっとしたとたんに、アベールは、誰やら背後に人気を感じて、何気なく振向いた。
「君か」
「KGBからお前さんの所にも話が来てたか」
「え
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