暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
ソ連編
白海の船幽霊 ヴェリスクハイヴ攻略戦
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、南イエメンのアデン。
紅海を直進し、エジプトのスエズ運河を抜けて、シリアのタルタス港に向かう。

 地中海沿いのタルタス港には、ソ連海軍の一大軍事拠点である、第720補給処がある。
このタルタスの海軍兵站拠点は、1971年にソ連がシリアとの二国間協定に基づき、設置したものである。
米海軍の第六艦隊――1971年当時、第六艦隊の司令本部はイタリアにあった――に対抗するべく、ソ連海軍の地中海第5作戦飛行隊後方支援として開設されたのが始まりである。


 場面は変わって、戦艦「ソビエツカヤ・ロシア」の士官食堂。
 参謀総長より、密命を受けたグルジア人の大尉は、思慮に耽っていた。
想いをはせる、フィカーツィア・ラトロワについて、一人悩む。
彼女は、男の(おも)(びと)でありながら、股肱之臣(ここうのしん)でもあった。
 彼は、まだ30にならぬ凛々(りり)しい黒髪の偉丈夫(いじょうふ)であった。
若い青年将校である。瑞々(みずみず)しい肉体の奥底にある、性も盛んであった。
同じ部隊にいたときは、一人中隊長室にいても、自然、ラトロワのたち居いや匂いには、ふと心を捕らわれがちだった。
『なにも俺ばかりではあるまい。恥ずかしがることもなかろう。
戦場に立つ野獣の一人ならば、誰しもがそうであろう……』
 彼は、しいて取り澄ます。
それにしても、夜々、彼女の部屋を訪ねる事を思い立ちながら、抑えに抑えて、夜明けを待つのは苦しかった。
益なき疲労に、日々人知れず苦しむほどであった。


 そんな時である。
白い海軍士官の制服を着た男が、口付きタバコ(パピロス)を燻らせ、湯気の出る紅茶を持ってきた。
「なあ、若様。海坊主(うみぼうず)って見たことあるかい」
グルジア人は、海軍少佐の男のことを振り返ると、
「何、海坊主(うみぼうず)だって……。まさかBETAの見間違いじゃないのか」
その瞬間、青年の表情からスゥっと血の気が引いた。

 海坊主(うみぼうず)とは、船の行く手に現れるという化け物の事である。
坊主頭で夜間に出現し、これに会うと船に悪いことが起こるといわれる。
 泉や湖、海から出る化け物は、何も日本ばかりではない。
その神話や伝承は、欧州をはじめ、全世界にある。
ソ連も例外でなく、極東のシベリアにいる蒙古系の少数民族、ウデゲ人の神話に似たような例が残っている。
泉の化け物『ボコ』で、旅人などを沼地奥深くに誘い込み、泥土にはまり込ませるという。

「俺はこの目で、カスピ海を渡る要塞級を見たことがある」
海軍少佐は、信じられぬ表情をするグルジア人青年を見た後、自嘲の笑みを漏らす。
「フフフ、そんなもんじゃねえんですさ。
あれは俺がウデゲ人の(じい)やに聞いたボコという化け
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ