第八十五部第五章 北京宣言その五十五
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「付け届けだ」
「そちらですね」
「今も賄賂と付け届けの区分は曖昧ですが」
「当時の日本は尚更ですね」
「今の連合より曖昧ですね」
「あの田沼意次もだ」
忠臣蔵より後の賄賂を多く貰ったという人物もというのだ。
「付け届けは多く貰ったが」
「それでもですね」
「賄賂自体は殆ど受け取らなかった」
「そうした人物でしたね」
「その実は」
「付け届けは礼儀だ」
当時の日本社会のそれだったというのだ。
「与力や同心も貰っていた」
「礼儀として」
「そうでしたね」
「それは悪いことではなかった」
そうだったというのだ。
「贈られる方も言わず」
「賄賂を寄越せなぞと」
「言わなかったですね」
「まず、ですね」
「吉良にしてもな、そしてだ」
キロモトは言葉を続けた。
「浅野にしてもだ」
「忘れませんね」
「付け届けのことは」
「そのことも」
「その筈がない、お互いに礼儀は尽くした」
吉良側も浅野側もというのだ。
「そうした、しかしだ」
「それでもですね」
「何故浅野内匠頭が刀を抜いたか」
「そのことは」
「あれは癇癪だったという」
それが真実だったというのだ。
「何でも当時彼は胃潰瘍でな」
「神経質になっていて」
「それで、ですね」
「笑われたと勝手に思ってですね」
「刀を抜いたのだ」
そうしたことが真実だというのだ。
「それも江戸城の中でな」
「当時の日本で江戸市中で刀を抜けば切腹でしたね」
「市中でおいてすら」
「そして城内ではでしたね」
「尚更でしたね」
「確実に切腹だった」
無論市中に抜いてもであった、この厳しい決まりによって幕府は江戸市中の治安を守っていたのである。
「そして家もだ」
「取り潰された」
「もうそのこともですね」
「決まっていましたね」
「それで刀を抜いたとなると」
「もうだ」
それこそというのだ。
「ああなることはだ」
「当然でしたね」
「それが忠臣蔵の真相ですね」
「吉良側に失策はなく」
「浅野側にありましたね」
「刀を抜いたその日に切腹となった」
その話を聞いた将軍徳川綱吉が激怒して命じたのだ。
「部屋の外でな」
「確か大名は室内での切腹でしたね」
「そう処されることが普通でしたね」
「されが格でしたね」
「だが何かとあってな」
母を大事にする綱吉が朝廷にその母が官位を授かる為の式でありその接待役の浅野がよりによってそうしたことをしたのだ。
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