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夢幻空花(むげんくうげ)
六、 自同律の不快の妙
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だったのである。闇尾超が何気なく発した言葉に、皆驚いたものであった。例へば、
――何故ものは時空間を動けるのか?
などと、闇尾超は真顔でいふのであった。闇尾超にとってものが時空間を動けることが不思議でならなかったのだ。それも当然である。何せ闇尾超にとって時空間は恐怖の対象であり、その時空間をものが動けることは闇尾超にとっては謎でしかなく、どうしても腑に落ちぬ事象の一つなのであった。それ故に恐怖の対象に絶えず囲繞されてゐる存在のどうしやうもない居心地の悪さは、発狂せずば、憤怒にならざるを得ぬ。存在することが即ち憤怒でしかないのである。憤怒せずば、一時も時空間に対峙して世界に存在することは不可能に違ひないのである。時空間恐怖症といふ心的外傷を抱へてゐたであらう闇尾超は、絶えざる恐怖心から憤怒の人になってゐたのだ。どう足掻いても納得が行かぬことに対してそれには深く関はらぬといふ極普通の人たちに付和雷同することは己に対して不義を働くことであり、己の存在に対して正直だった闇尾超は、時空間恐怖症であることを隠さうとはしなかったのである。

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