第二章
[8]前話
「けれど今はあるんだ、そしてだ」
「そして?」
「そしてっていうと」
「お母さんの服に柳の皮が付いていた、まさか」
妻を見てだ、ペテルは言った。
「お前は柳か」
「ええ」
エディタは観念した顔と声で答えた。
「私はあの柳よ」
「やはりそうか」
「長くあそこにあってやがて」
「力を得てか」
「そうなって」
それでというのだ。
「そのうえであなたを見ているうちに一緒になりたくなって」
「何処から来たかと思っていたが」
「そうだったの」
「そうか、だが浮気はしていないな」
「昼はいつもあなたと一緒にいて夜は柳に戻るから、それに」
エディタはさらに答えて言った。
「あなたと一緒になりたくて来たのよ」
「俺の家にだな」
「その気持ちは今もわからないから」
「そうか、それなら」
「ええ、わかってくれるわね」
「わかった」
「けれど私のことがわかったわね」
その正体がとだ、妻は項垂れて言った。
「それなら」
「俺は相手がいなかった」
夫は自分の前から去ろうとする妻に答えた。
「それで来てくれたならな」
「それならなの」
「いい、これからもだ」
さらに言うのだった。
「お前さえよかったらな」
「うちにいていいのね」
「お前はよく働いてくれてだ」
畑仕事も家事もというのだ。
「子供達を大事にしてくれている、それならな」
「いいの」
「ああ、浮気をしていないならだ」
それならというのだ。
「いい、俺はそれが心配だった」
「そうでないのなら」
「お前がいいのならな」
「そう、それじゃあ」
「これからも一緒にいてくれるか」
「ええ、お願いするわ」
妻も笑顔で応えた、そしてだった。
エディタはずっと家に妻そして母としていた、一家は幸せに過ごしたが彼女が柳であることは一家の秘密だった。
夫婦は年老いるまで仲睦まじく暮らした、だが年老いた妻が亡くなると。
柳の木もなくなった、年老いた夫は妻の墓だけでなく柳の木があった場所にも行って泣いた、そして暫くして死の床に着いたが子供達に言った。
「墓の傍に柳の木を植えてくれるか」
「わかったよ」
「そうするな」
それぞれ結婚して家庭を持っている子供達も答えた、そしてだった。
彼の墓の傍に柳が植えられた、それは二本の柳だったがすくすくと育ってそこに常にあった、その柳は今もあるという。ボヘミアの古い話である。
柳女房 完
2023・6・13
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