第一章
[2]次話
楓の笛
ハンガリーの古い話である。
かつてこの国には二人の王女がいた、姉は黒髪で妹は金髪だった。二人はそっくりでありそれぞれ整った外見で色が白く楚々とした感じで小さな顔と高い鼻に青い長い睫毛の目を持っていた。姉妹の仲は然程悪くなかったが。
姉の黒髪の王女は国を継ぐ立場であるので既に隣国からこの国の二番目の王子を夫に迎えることが決まっていた、しかし妹の金髪の王女は。
「さて、誰をだ」
「私の婿にするかはですか」
「とんと見当がつかぬ」
父である王、大柄で逞しい身体に髭がなく黒髪に青い目の彼は言った。隣には金髪の姉妹そっくりの顔の王妃がいる。
「国の有力な貴族が賢人か」
「誰にですか」
「嫁がせるつもりだが」
それでもというのだ。
「まだな」
「そうした人がですか」
「見当たらぬ」
こう言うのだった。
「どうもな」
「今はですか」
「だからな」
それでというのだ。
「今暫くな」
「私の嫁ぐ相手は」
「決まっておらぬ」
王は難しい顔で言った、この話を傍で見ている姉の黒髪の王女は妹に言った。
「一度外に出てそうした人がいるかどうかね」
「聞けばいいですか」
「ずっと王宮にいてもね」
そうしてもというのだ。
「聞けることはね」
「限られていますか」
「見るものもね、だからね」
「一度外に出て」
「国中を巡って」
そうもしてというのだ。
「それでね」
「そうした人を探すことですか」
「ええ、どうかしら」
「そうですね」
妹は姉のその言葉に頷いた。
「ここはです」
「ええ、国を巡って」
「探してみます」
妹も決意した、そしてだった。
実際に国仲を巡った、すると国の東のある村で奏の笛の音が聞こえた、その笛の音に耳が傾きそれでだった。
そちらに馬を進めると薄茶色の髪の毛であどけない顔立ちの灰色の目のやや小柄な羊飼いの少年がいた。見れば少年は。
笛の音で羊達をまとめていた、しかも。
「あの者は馬に乗って周りをよく見て回って」
「はい、どの羊が何処にいるかです」
「しっかり見ていますね」
「一つの場所に留まらず見て回っています」
「笛の音だけに限らず」
「そうしていますね」
「また森にです」
近くにはそれもあるがだ。
「近寄らせないですね」
「羊達を」
「狼や熊がいるかも知れないそこには」
「最初からです」
「そうさせていますね」
「危うい場所には最初から近寄らせない」
金髪の王女は言った。
「そうですね」
「左様ですね」
「よくわかっています」
「ただ笛を使って見て回るだけでなく」
「そうしています」
「あの少年は相当頭がいい様ですね、それならです」
王女はさらに言った。
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