第一章
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夫の感謝
ネイティブアメリカンのセネカ族に伝わる話である、この部族にある夫婦がいた。
夫は狩りをして妻は家事をして暮らしていた、そこで夫はある日ヘラジカを狩ってその大きな身体を家に持って来て言った。
「どうだ、凄いだろう」
「いや、あんた昔から狩りは上手だけれど」
妻はしたり顔の夫に驚いた顔で応えた。
「今日はまたね」
「俺が自分で言う通りにだな」
「凄いのを獲ってきたね」
「でかいヘラジカ一頭だからな」
「これは凄いよ」
共に中年である、夫の目じりには皺があり妻の身体には肉が付いてきている。家の中には小さな子供が三人いる。
「本当にね」
「それでな」
夫は妻にさらに言った。
「塩漬けや干し肉にもしてな」
「長く食べられる様にするんだね」
「それで今日の夕飯にもな」
これにもというのだ。
「してくれるか」
「そうだね、じゃあ鍋にでもしようか」
「じゃあ水が必要だな」
「それが今日村の外れの楓の木から随分樹液が出ててね」
妻はそれでと話した。
「その樹液をなんだよ」
「採ったのか」
「何かに使えると思ってね」
それでというのだ。
「採ったし丁度いいね」
「ヘラジカの肉を煮るのに使うか」
「そうするよ」
「そうか、じゃあ俺はちょっとな」
夫は妻の話を聞いて言った。
「晩飯に使う以外の肉を塩漬けや干し肉にしておくな」
「晩ご飯の時には戻って来るね」
「ああ、そうするからな」
それでというのだ。
「それまでに美味くしておいてくれよ」
「それじゃあね」
妻も頷いた、そしてだった。
鍋に樹液を入れて夕食の分の肉を入れた、それからことことと煮るが。
その他の家事もして子供達の面倒も見た、そうこうしている間に鍋から目を離してふと気付くとだった。
鍋の中の樹液がなくなっていた、水代わりにしていたそれがなくなり妻も仰天した。見ればその鍋は。
肉は茶色いねばねばとした樹液を煮たものの中にありかなり見栄えが悪かった、これはしまったと思っていると。
夫が家に帰って来てだ、こう言った。
「肉は煮えたか?」
「煮えたは煮えたけれどね」
妻は夫にバツの悪い顔で答えた。
「どうもね」
「どうもってどうしたんだ」
「いや、お水を使った方がよかったね」
こう言うのだった。
「これは」
「樹液を使ったのが駄目だったか」
「この通りだよ」
妻は夫にその鍋を指差して言った。
「変な風になったよ」
「何だこれは」
夫はその鍋の中を見て眉を顰めさせた。
「樹液が変な風になってるぞ」
「煮てる間にいつも通り他の家事したり子供達のことをしてるとね」
そうしていると、というのだ。
「こうなってたんだよ」
「肉は
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