三、 摂動する私
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つけてしまったのである。さうすると、それはMasturbationよろしく、高まる絶頂の時の射精で感情が一山越えるのにも似て、私の感情は必死に意識について行かうとしながら、ある時意識を追ひ越し、感情が意識に先立つ恍惚状態の中で、意識は溶解するその言葉も追ひつけぬ高まった絶頂の、それを名付ければ此の世に人型として存在する振動子と化したかのやうな搏動の揺らめきの中に没入する悪しき耽溺に違ひなかったのである。
何時も物憂げな私の魂は絶えず興奮を欣求してゐて、さうして日一日と生き延びる糧にしてゐたのである。ところが、一度異形の吾と名付けてしまったそれは、私が自身に惑溺するのを決して許さなかったのであった。異形の吾は手を変へ品を変へてまだ、私を誘惑するのであった。異形の吾は相変はらずその正体を明かさなかったが、それでも異形の吾が繰り出す表象の数数は、Auroraを見るかのやうな此の世のものとは思へぬIllusionに私を巻き込みながら、私をそれまで経験したことがない世界へと連れ出すのである。私は私で、それが異形の吾の罠と知りつつも、例へば大渦に巻き込まれることが恐怖であることの裏返しに、それは心躍らせる興奮の坩堝であることといふやうなことを期待して、私は敢へて異形の吾の罠に飛び込むのだ。仮令、それが相当な幻滅を齎さうともである。異形の吾のIllusionは何時も最後は幻滅に終はるのであるが、私はそれで善しとして、異形の吾の諸行を何時も許してゐたのであった。何せ、私がすることなど高が知れてゐる。況して異形の吾のすることなど尚更高が知れてゐる。それでも私が異形の吾を追ふのは、異形の吾が限界を超えて何かをするその瞬間が見たいが為である。その瞬間こそが真のたまゆらの永劫へと続く扉を開けることであり、私は、異形の吾と名付けた私に対して過剰なまでの期待値を、確率が一にはならずとも一の近傍を標榜するその期待値を託してゐたのであった。
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