三、 摂動する私
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、そんな感覚に包まれた私は唯、異形の吾を追ってそのIllusionの世界に没入する中で、本質は吾を忘れて異次元へと出立するやうなわくわくとした心躍るたまゆらの永劫を存分に味はってゐるのかも知れぬのだ。その時、外部から私を見る観測者は、私が奇妙な振動をしてゐてゆらりゆらりと揺れてゐる陽炎のやうな存在に化した私を見るに違ひない。そして、私の目は虚ろで、あらぬ方向を見てゐて発狂したのかも知れぬと吃驚する筈なのである。それほど異形の吾との戯れは私を絶望の底へと落としつつも、私自身をそれだから尚一層抜けられぬまるで薬物中毒者のやうな異形の吾依存症を患ってゐるといへるのだ。
その実、異形の吾は徹頭徹尾その正体を明かさず、私を欺いては、
――ぶはっはっはっはっ。
と、哄笑するのだ。その嘲笑を含んだ哄笑が私の五蘊場中に反響してなんとも言ひ難い、さう、それはバリ島の民族音楽、ケチャにも似た恍惚の逆巻く鮮烈な合唱となっていつまでも五蘊場に鳴り響くのである。さうして益益高揚して行く私は、異形の吾が繰り出すIllusionにうっとりとしては異形の吾の思はせ振りの思ふ壺なのである。狐の化かし合ひにあったやうに半分は正気を失ってゐる私は、それでも尚、異形の吾の気配の後を何かに取り憑かれたやうについて行き、尚も私は吾を忘れたいが為に、それは底知れぬ私に対する絶望から来るのであったが、現実逃避したいが為に阿片中毒になったものが、阿片に群がるやうに、将又、異形の吾が振り撒く綿菓子のやうな蜜の虜となって別の言ひ方をすれば、蟻地獄に落っこちた蟻の如くに最後は生き血を異形の吾に吸はれて骸になるのを重重承知しながらも、そのたまゆらの永劫の状態に没入することは已め難いのであった。
ゆらりゆらりと揺れ動く私は、?み所のないまるで幽霊の如くに魂を抜かれた生きる屍の如くに大地に佇立してゐるのかも知れぬ。多分、異形の吾を追ってゐる時の私は顔面蒼白にも拘はらず、ニヤニヤと不気味な笑ひを顔に浮かべ、それでゐて、高揚のあまり、汗びっしょりで目だけは眼窩の奥でギラギラと輝く、変質者と何ら変はりがない状態で、一遍上人の念仏踊りではないが、
――私は、私は。
と、ぶつぶつと呟きながら身をくねらせては、時折絶叫する異常者に成り下がってゐた筈である。然し乍ら、当の私はそれで善しと心の何処かで思ってゐて、恍惚状態に漸近して行く私は惑溺するのであった。何に惑溺するのかといふと、己に惑溺するのである。つまり、異形の吾を追ってゐるといふのは己に惑溺したいが為の私がでっち上げた口実にして邯鄲の夢の道具に過ぎず、私は異形の吾と五蘊場に棲むそれを名指すことで私の意識を私から分離し、距離を生じさせて、私の固有時とは別の時間が流れる異形の吾に翻弄されることで、私は上手い具合に私が恍惚状態に惑溺できる端緒を見
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