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夢幻空花(むげんくうげ)
三、 摂動する私
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、さういった傍から私が、
――ぶはっはっはっはっ。
と、哄笑し、葉隠れの術ではないが、一瞬にして煙と化したかと思った途端に全ての私が姿を消し、
――ぶはっはっはっはっはっ。
といふ私を侮蔑する嗤ひ声のみが五蘊場に鳴り響くのである。ところが、五蘊場の何処かにか私といふ曖昧模糊とした、かういふと誤解を招くかも知れぬが、私といふ名の集合体が潜んでゐる筈で私はその変幻自在にして神出鬼没な私を《異形の吾》と名付けて幾分、吾ながらいい手捌きで五蘊場に棲む私を処したと私はほくそ笑むのであるが、その傍から異形の吾は、
――ふっ。
と、更に私を侮蔑し、鼻で笑ひながら私の内部の目の眼前に忽然と現れ、あかんべえをして直ぐさま姿を消すのであった。この異形の吾は時に鮮烈な印象を残す表象となって内部のの私の目の眼前に現れては直ぐさま姿を消し、時に煙幕を張ってその姿を隠す隠遁の術で私を翻弄しては、私をおちょくるその自在感は、ハイゼンベルクの不確定性原理でいふところの時間を、つまり、去来現(こらいげん)を攪拌して時制を滅茶苦茶に寸断して、未来でもなく、過去でもなく、現在でもない異形の吾に特有の出来事が湧き立つ変容が存在し、私はその変容に振り回されてゐるだけに違ひないのだ。もしかすると異形の吾にはそもそも時間がなく、あるのは出来事の変容のみなのかも知れぬし、異形の吾は時間をくるくると巻いてゴクリと呑み込んでしまったやも知れぬ。それ故に異形の吾の出来事の変容は変幻自在で千変万化にして神出鬼没なのだらう。さう思ふと何となく得心が行くのだ。肥大化した出来事の変容。それは詰まる所、私がでっち上げた化け物の一種であり、その眷属に私も加はるのかも知れぬが、しかし、私は時間に雁字搦めに搦め取られてゐて、これまで、一度も時間から自由なことはない筈なのである。否、異形の吾と戯れてゐる時はある種自在な感覚を味はってゐて、去来現から自由の身として内部の人として此の世に存在してゐるのだ。つまり、それは夢見の時間と類似点がなくもなく、竜宮城で過ごす数時間が現実では数十年といふ、またはその逆で、夢見の時間が数十年経ったのに現実では数時間のことでしかないといった、唯唯、時間の不思議を垣間見るのみなのである。
 森羅万象が仮に私のやうにあるのであれば、皆、内部に異形の吾を棲まはせてゐて、夢中遊行する中で、時が経つのを忘れて時間の自縛から逃れ出てゐる、つまり、その時、吾は己から食み出し摂動してゐるに違ひない。いづれも己の属性から時間を取り除けば、それは至上の自在感を味はへる至福の時が待ってゐる。それがたまゆらの永劫なのかも知れず、私にとって異形の吾との戯れの時間は、不死の時間、つまり、それは時間を止揚してしまひ、なんだか異空間にゐるやうな、それとも永劫に触れた衝撃に打ち震へ、悦に入ってゐる至福の中にゐるやうな
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