第一章
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働かせる
水を司る大地の女神ノコミスはある日サドウカエデの木を見ていてあることに気付いた、それで周りに言った。
「見るのです、この木を」
「サトウカエデですね」
「この木に何かありますか」
「一体」
周りの者達は老婆の姿、白髪で皺だらけの顔の女神の言葉に応えた。
「見たところ普通の木ですが」
「普通の楓の木ですが」
「一体どうしたのですか」
「何かありましたか」
「木から出ている液です」
ノコミスが言うのはこれのことだった。
「樹液です」
「樹液ですか」
「それに何かありますか」
「見たところ普通の樹液ですが」
「他の木のものと同じ」
「これは非常に甘いです」
そうだとだ、女神は話した。
「そなた達も舐めてみればわかります」
「それでは」
周りの者達も言われて舐めた、すると。
「これは」
「確かに甘いです」
「非常に美味いです」
「よいものですな」
「実に」
「はい、ではです」
ノコミスは微笑んで話した。
「これはこのままにしてです」
「出る様にして」
「そして手に入れて舐めて楽しむ」
「そうするのですね」
「はい、そうしましょう」
このことを決めた、だが。
ノコミスの孫であり創造の神であるマナブシュ、長い黒髪に地的な落ち着いた顔立ちと雰囲気で長身にすらりとした身体の彼が言って来た。
「お祖母様、木から甘い液が出るのはいいことです」
「そうですね」
「しかしです」
祖母に微妙な顔で言うのだった。
「それが今の様に簡単に手に入るのはどうでしょうか」
「それはよくないというのですね」
「はい」
こう言うのだった。
「あの木の樹液は確かに美味いですが」
「そなたもそう思いますね」
「あまりにも美味しいです」
祖母神に真面目な顔で話した。
「そしてそうしたものが簡単に手に入ると」
「よくないと」
「はい、その分人も神も働かなくなります」
こう言うのだった。
「その分です」
「よいものを手に入れる、美味しいものを口にするにはですね」
「それに相応しい努力がありませんと」
マナブシュは真面目な顔のまま話を続けた。
「よくないですね」
「その分堕落しますね」
「努力するからこそ」
それ故にというのだ。
「神も人も良くなりますね」
「確かに」
マナブシュの言葉にだ、ノコミスも頷いた。
「その通りです」
「ですから」
「この樹液はですか」
「簡単に手に入る様にするのはどうかと。そして」
マナブシュはここで笑って話した。
「工夫をすればさらに美味しくなる様にしましょう」
「そちらでも努力をしてもらうのですね」
「はい」
その通りという返事だった。
「どうでしょうか」
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