二、 闇尾超からの贈り物
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闇尾超の死を知ってから数週間過ぎたある日のこと、闇尾超の二歳年下の弟から私宛に数冊の大学Noteが郵便で送られてきた。その大学Noteは闇尾超が生前、某精神病院に入院中に書き綴ったものであった。それは闇尾超が死ぬ前日まで書かれた日記風の思索の跡で、何故、それが私に送られることになったのか初めは解らなかったが、その大学Noteには闇尾超の弟の手紙が添へられてゐて、其処には闇尾超が生前、闇尾超が死んだならば、この手元に今ある数冊の大学Noteを私に送るやうに遺言したとのことである。何故私なのかといふと、闇尾超曰く、この大学Noteに書かれてゐる内容を理解できるのは此の世で私しかゐないとのことであった。
私と闇尾超の関係は幼馴染みで、所謂、竹馬の友であった。高校までは闇尾超とは同級生として私は過ごし、大学は別であった。学校が別になると闇尾超と私は自然と疎遠になってしまひ、音信不通であったが、私も闇尾超も何を考へてゐるのかは以心伝心の如くお互ひお見通しであったと思ふ。つまり、お互ひ会ふことはなかったが、それは、お互ひが今何に悩んでゐて、また、何を考へてゐるのかが手に取るやうに解ってゐたからである。それは闇尾超が書き残した大学Noteを読めば明らかであった。
――己に対して猜疑心が芽生えるともうそれは歯止めが利かぬ。それはそもそも私なんぞの存在自体が脆弱であり、己に対する負の連鎖は止めどなく続き、己を断崖絶壁まで追ひ詰めぬと私の気が済まぬのだ。さうして追ひ詰められた私が硫黄島のBanzai cliffでの出来事を再現するかのやうに『万歳』と叫びながら断崖絶壁から飛び降りるだ。そして、私は宙にゐる数秒間に吾が全人生が走馬灯の如く甦る中、恍惚状態で絶命する。不幸なことにその目撃者は、また、私自身なのだ。
などという言葉が書き連ねてあるその大学Noteをペラペラ捲っただけでも闇尾超の何故だか私の心奥へと一直線に襲ひかかり、私を懐柔するやうに私の首根っこを捕まへては、
――ぐきっ。
と、私の首を圧し折るその言葉の持つ圧力は相当なもので、弾丸が鉄板を打ち抜くやうに闇尾超の言葉は私を撃ち抜く。つまり、死んだものの勝ちなのだ。始めから勝負は決してゐるのだ。そんなことは百も承知で私は闇尾超から送られた大学Noteを読み始めるのであった。それは瞠目せずにはをれぬ言葉が鏤められてゐて、やはり、闇尾超は己を己の手で断罪したのは間違ひないのである。
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