一、 此の世界の中で
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たな論理を見出した結果、矛盾でなくなる事象を何度見てきたことか。然し乍ら、私はまだ、他力本願の境地にはほど遠く、此の世界に全的に身を任せることに恐怖を感じてゐる。なるやうにしかならぬとはいへ、それを金科玉条の如くにする恐怖は、世界の残酷さを身をもって体験してしまったから、その残像が消えぬまま、私は平穏無事な日常をびくびくしながら過ごすのだ。世界はある日突然、牙を?き、存在を襲撃し、死に飢えた死神のやうに死者を死屍累累と堆く積み上げる。その死んだものたちの、そして、生き残ったものたちの怨嗟が此の世に充溢してゐて、それは時間が長く長く流れることで最初の衝撃的な針が振り切れたやうな動揺と心の傷を癒やすのであらう。
また、この不合理で冷酷な世界は、例へば”特異点”といふ矛盾を抱え込んでゐる。これは此の宇宙の創成にも関わる大問題で、極限まで、存在するものを小さくして行き、超えてはいけない一線を飛び越えてその存在を無にしてしまった時、無限の扉が開いてしまふのか、それとも無が此の世界を鎮めるのか、いづれにしても何が起きるのか特異点では未だに不明なことである。それは無から有が生じるのかといふ此の宇宙創成時に関はる問題で、少なからずBlack holeの問題にも関係する。ここで、誤謬の仮象を用ゐれば、それは夢幻の世界である。つまり、特異点の問題が解決しない限り、世界は夢幻を孕む摩訶不思議な世界が成り立つのである。夢を見るのは特異点と深く結び付いてゐて、夢の世界での全肯定は或ひは特異点ではあらゆることが肯定されるそれこそ摩訶不思議な世界なのかもしれぬのである。だから、夢に啓示を覚えて夢を正夢として、また、物語の断片として後生大事に扱ふ人がそれこそ五万とゐるのである。それもこれも特異点に帰すのである。果たして闇尾超も特異点の問題に躓いたのだらうか。夢がこの宇宙をぎょっとさせ、宇宙を転覆させるその端緒になるとでも考へてゐたのであらうか。夢といふ世界の原理である全肯定のその世界は、夢幻の世界に留まらず、それは食み出してしまってこの現実世界に影響してゐると考へたのだらうか。そんなことを考へながら、蒼穹を気持ちよささうに流れる雲を私は今、見てゐる。上昇気流がある高さまで届いて雲を生じ始めてゐる。凪の時間は終はって風が上空に吹き始めたやうだ。この現実が秩序ある世界といふことは特異点からは遠くに存在し、全肯定の世界ではなく、冷酷無比な振る舞ひをするのかも知れぬ。
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