序
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序
なんだかんだであれやこれやと思ひ悩みながらの十年以上の思索の結果、埴谷雄高の虚体では存在の尻尾すら捕まへられぬといふ結論に思ひ至った闇尾超は、それではオイラーの公式から導かれる虚数iのi乗が実数になるといふことを手がかりに虚体をも呑み込む何か新たな存在論が出来ぬかと思案しつつ、それを例へば虚体は存在に至るべく完全変態する昆虫の生態を模して存在の蛹のやうなものと強引に看做してしまって、闇尾超はその存在の蛹から虚体に代はり存在が完全変態して何か全く新しい何かに変態すると考へ、また、一方で、虚体の仄かにその実在を暗示する、例えば虚体がBlack holeの如く外部から漆黒の闇としてしか見えぬながら、其処は物質で充溢してゐる、もっといってしまへばBlack holeの内部は光に満ち溢れた眩しさに眩暈のする世界で、将又、Black holeが存在するといふことがBlack holeを取り巻く高速回転し強烈に輝き、色色な電磁波を発しながら崩壊し行く星たちの様から暗示されるのと同じやうに、虚体は詰まる所、実体が光を放たんばかりに充溢しているものの杳として直接にはその形相が見えぬその有様などをも鑑みて闇尾超は虚体に代はる存在の完全変態する全く新しい存在の有様を杳体(ようたい)と呼び、それをして杳体御大と綽名されるに至った闇尾超は、埴谷雄高と奇妙な縁で結ばれてゐたのか埴谷雄高が名付けたところの所謂”黙狂”であった。何故、闇尾超が黙狂になったのかは正確なところよく解らなかったが、風の噂によると闇尾超が黙狂になったのは闇尾超が黙考に黙考を重ねてゐるうちに精神疾患に罹り彼の脳と声帯との神経回路が断裂してしまって発話は渾沌を極め、話し方そのものを忘却してしまったからと言はれてゐた。闇尾超はRehabilitationを勧められたがそれらは一切拒否したといふ。しかし、闇尾超の言語野は破壊されたわけではないので、闇尾超は何時もSmartphoneを携帯してゐて、他人とのやり取りはそのSmartphoneを使って行ってゐたので、闇尾超は黙狂であっても何の不自由も感じてゐなかったやうだ。
その闇尾超は、しかし、極度の自虐の虜になってゐたと言われてゐて、彼は絶えず、
――お前自身を、お前の手で徹底的に弾劾せよ。お前の存在をお前は決して許すまじ。はっ、お前の手でお前を抹殺せよ。さうしてお前は口から手を突っ込んでお前の胃袋を引っ?んで胃袋の内部を外部に引っ張り出して島尾敏雄の『夢の中の日常』のやうに体?を裏返し、さうして首を刎ねて晒し首にせよ。その滑稽さがお前の本質だ。
と、闇尾超は己を針の筵の上に座らせては自問自答の罠に嵌まってしまってゐたらしかった。つまり、それは闇尾超は己の存在その
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