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第五十三話 幸福その十二

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 庚は去った、その後でだった。
 丁は心の奥自分のそこにいるもう一人の自分に言った。
「聞きましたね」
「忌まわしい」
 これがもう一人の丁の返事だった。
「わらわは出られなくなり」
「人間も世界もです」
 そのどちらもというのだ。
「護られます」
「そうなるな」
「そしてわらわは」
 今度は自分自身のことを話した。
「これからは」
「孤独を感じることなくな」
「生きていきます」
「そうか、ならな」
「それならですか」
「そうせよ」 
 こう言うのだった。
「お主はわらわ、それならな」
「わらわが嬉しく思うならですか」
「わらわもそうなる」
 そうだというのだ。
「だからな」
「このままですか」
「生きよ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「それでは」
「そしてじゃ」
 もう一人の丁はさらに言った。
「死ぬまでな」
「孤独を感じることなく」
「そしてじゃ」
「死ぬ時は」
「笑顔で死ね」
 確かな声で告げた。
「よいな」
「そうせよというのですね」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「よいな」
「それでは」
「わらわはそのお主を見る」
 その丁をというのだ。
「是非な」
「そうしますか」
「そうするからな」 
 丁の心の中でというのだ。
「よいな」
「それでは」
「では夜になればな」
「眠りますか」
「お主がそうすればな」
 そうすればというのだ。
「眠る。もうすることはないからのう」
「夜は眠りますか」
「昼はそなたを見守ってな」
 丁自身の心の中からというのだ。
「そうしよう。わらわは今もこの世の全てを憎んでおるが」
「わらわはですか」
「好きじゃ。想っておる」
 こう丁に告げた。
「何しろわらわ自身であるからな」
「だからですか」
「愛おしい。そのそなたを見られるならな」
 それならというのだ。
「よい。ではな」
「これからは」
「そうして生きようぞ」
「わらわの心の中で」
「そして楽しむとするか」
「わらわを見てですか」
「そしてそなたが見聞きするものを共にそうしてな」
 それでというのだ、丁は確かに五感はないがそれでも力で見聞きし感じることが出来ることから言うのだ。
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