第一章
[2]次話
動体視力も衰える
堂島茂男は世界屈指の企業グループである八条グループが経営しているプロ野球リーグ八条リーグの京都のチームに所属している、二千本安打と五百ホーマーを達成したスラッガーであり兎に角選球眼がいい。
大柄でがっしりした体格に細く鋭い目で四角い顔をしている、守備位置はサードでそこでもボールをよく見た的確な守備で評価が高い。
だがその彼がだ、三十八歳になったペナント終盤でこんなことを言った。
「もう引退します」
「そろそろそうした年齢だし」
「引退も仕方ないか」
「けれどまだ三割だしな」
「ホームランも二十本打ってるし」
「守備も衰えてない」
「それで引退は早い気もするな」
ファン達は彼の引退を聞いてそれぞれ言った、だが。
彼は引退しシーズン最後の試合で引退試合となり胴上げも行われユニフォームを脱いだ、そうしてだった。
親会社の社員となり働きはじめた、八条リーグは選手が引退しても親会社等への就職が出来るアフターも万全のリーグなのだ。
背広になって働きはじめた彼に大学で同期だった若松勤小柄で犬顔で黒髪をセットしていて今は同じ会社で働いている彼が尋ねた。
「ずっとお疲れ様で」
「野球選手としてか」
「ああ、よくやったよ」
仕事が終わりバーで並んでカウンターの席に座りカクテルを飲みながら話をした。
「本当に」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
堂島は若松に笑顔で言葉を返した。
「誰に言ってもらっても嬉しいけれどな」
「それでもか」
「大学の同期のお前に言われるとな」
ジントニックを手に微笑んで話した。
「尚更な」
「そうなんだな」
「ああ、本当にな」
「それは何よりだ、ただな」
若松はその堂島にピーチフィズを飲みつつこうも言った。
「まだやれたんじゃないかってね」
「成績見るとか」
「思ってるけれどな」
「今もか」
「そう思ったけれどな」
「それな、実は目がな」
堂島は少し苦笑いになって答えた。
「衰えてな」
「目か」
「俺は選球眼がいいって言われてるな」
自分が現役時代実際に言われていたことを話した。
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