第二章
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だがそんな中でだった。
佳織は受付にいた時にホテルから出る一家の中の小さな男の子からだ、笑顔でこう言われたのだった。
「有り難う、お姉さん」
「えっ!?」
「凄くいいホテルだったよ、有り難う」
「は、はい」
にこりとした純粋な笑顔にだ、佳織は。
最初戸惑った、だが彼のその言葉に頷いてだった。
にこりと笑ってだ、こう返した。
「またのご来訪をお待ちしています」
「うん、また来るね」
男の子はこう告げて両親と一緒にホテルを後にした、だが。
それから佳織は生き生きと働きはじめた、闊達でただしているのではなく積極的で私生活にもハリが出た。
それで唯に仕事帰りの居酒屋でその変わったことを聞かれたのだった。
「急に変わったわね、侵入の頃みたいに」
「うん、あの頃のこと思い出したのよ」
共にビールを飲みつつ答えた。
「男の子ににこりと笑って有り難うって言われて」
「それでなの」
「お仕事の時にね、何でこのお仕事選んだか」
「確かアルバイトでホテルで働いて」
「そこでお客さんに笑顔で有り難うって言われてね」
「それが凄く嬉しくて」
「このお仕事しようってね」
その様にというのだ。
「思って選んだから」
「それでその時になのね」
「そのことを思い出したから」
だからだというのだ。
「最初の頃みたいにね」
「頑張ってるのね」
「そうなの」
「そうなったのね、私は実はベッドメイクとかお掃除好きで」
「ホテルマンのお仕事の基本ね」
「それでなってそうしたことをさせてもらうこと自体がね」
その仕事がというのだ。
「やってるの」
「そうよね、あんたは」
「それで佳織ちゃんがやる気を取り戻したら」
それならとだ、唯はにこりとして述べた。
「嬉しいわ、じゃあこれからもね」
「頑張っていくことね」
「そうしよう」
「ええ、それじゃあね」
佳織は笑顔で応えた、そうして二人で一緒にビールに冷奴等のつまみを楽しんだ。そうしたものもやる気のない頃よりずっと美味かった。
佳織は再び楽しく生き生きと働く様になった、すると周りも彼女を評価して私生活もよくなりそこから交際相手も出来た。最初のことを思い出すことが出来た彼女は幸せになったのだった。
思い出した初志 完
2024・1・16
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